風邪:すみません、ズル休みしました

もう方針は決まったのに、社長が未練たらしく猫なで声を出す。
今までの言動を見るに、この人が優しくなるのは何か思惑があるからなのだ。人を自分の都合に合わせて動かしたいから、宥めたりすかしたりなにかと話題を誘導し、空気を作ろうとする。そのこと自体はどうでもいいが、何が厭って努力がむなしいと知ると、途端に掌を返すところだ。俺がこんなにしてるのに、と勝手に逆ギレし汚い報復を決行しちゃうのだ。
私は話の流れ以前に初めから社長の言うことを聞くつもりはないので、必要以上に相手を刺激したくない。退職後の書類も当り前に貰いたいし、できれば最後の給料も貰いたい。だから今月いっぱいという話もこちらから反故にして、わざわざ攻撃される材料を作りたくはないのだ。
だがしかし。
「なぁ、東京には行きたいの?」
ええ、行きたいです。誰がなんと言おうとここに残る気はない。しつこいよ。
「給料はどうなの。ここよりいいの」
アナタには関係ありません。自分は物凄く高い給料を払っているつもりだったようだが、世間的には普通だ。それに年収が下がっても絶対辞めるから、心配しなくていい。ああ、アタマ痛い。
「ねぇ、この会社どうしたらいいと思うぅ?」
それを私に訊かれましても。甘えられると気持ち悪い。心なしか胸がムカムカしてきたような。
「俺もどっかに雇ってもらおうかなぁ。雇われれば仕事だけしてりゃいいんだもん、楽だよな」
‥‥‥‥イラッ。好きにすればいいじゃないか。
「俺も東京に行こうかなぁ」
だったらふたりでもう一度? ふざけんじゃねぇ。ウラが読めるだけに、ああ、寒気がする。
そんなこんなで昨日は心身ともにぐったりして帰宅し、食欲もわかないし調子悪いな畜生、と思ったら、別に社長のせいではなくただの風邪だったらしい。
相変わらずここぞというところで、踏ん張りのきかない私。でもこのところ色々あって疲れたのは確かだ。一晩寝たらだいぶ調子は良くなったのだけど、行きたくないし休んどこう、というわけでズル休みしました、すみません。(誰に向かって謝っているんだ)