セクハラ

現場事務所というのはいろいろあるが、そのときは急ごしらえのプレハブだった。トイレは外の簡易便所か事務所の片隅についている個室ひとつだけ。
あるとき男性社員がその個室のトイレに入ったのだが、鍵をかけ忘れたらしく、新卒の女の子が彼が入っているのを知らずにドアを開けてしまったことがあった。彼女は黙ってドアを閉めたらしい。
最後の打ち上げの際、それをからかわれて彼女は真っ赤になっていた。といってもそんなに厭らしいものではなく、酔っ払いが明るく放談していただけで、よくある可愛がりである。ウブな娘にはちとキツかったかもしれないが、こういう職場にいたら馴れなきゃやってられないというのは事実だし、今はおぼこでも芯の強そうな娘だったので、行き過ぎたら止めに入ればいいだろうと判断して、私は隣に坐って黙って聞いていた。オバサンの余裕である。
が、ベロベロに酔っ払ったオッサンたちは際限がなかった。
「あ、そんなとき♪」
と始まって、
「はい、先輩!(私) アナタなら♪そんなとき♪なんて言う?」
と振られた。
その答えはここには書かないが、大爆笑を貰ったとだけ記しておこう。


‥‥ひどい職場である。あの娘、絶望して仕事辞めてなきゃいいけどな‥‥。


私の場合はセクハラそのものよりも、男同士の独特のノリというのか、こういういきなりの振りで“面白いことを言うかやるかしなくてはならない”という空気に曝されることに、最初の頃は結構ビビった。
性コミュニティではそういう切磋琢磨が少なく、それまで一発芸は見るものであって、やらされることには馴れていなかったのだ。
ただこういう受け応えが出来るようになる努力は、ある意味ではすべきではないような気もする。女性の品格というか、あるイメージが損なわれるのは確実だ。セレブやコンサバを目指す賢い女性ならば、こうした挑戦をやんわりお断りする巧い言い訳を考えるんだろう。それこそお笑い芸人じゃないんだから。

追記

とはいえ、私もセクハラが平気なわけではない。あんまりどぎついときは怒ることもある。
ただ世の中には男と女しかいないわけで、男がいて女がいれば自然とそういう話が少しは出るのも事実で、ある程度織り込み済みというか、いちいちとりあっていたらキリがないというだけ。むしろピシッと言い返さないとどんどんエスカレートするので、自分の尺度で一線を引いたほうが楽だと思う。