ジャネット・カーディフ & ジョージ・ビュレス・ミラー 展@メゾンエルメス

そういえば展覧会に行ったんである。展覧会といっても小さなもので、会場に楕円に並べられた40個のスピーカーひとつひとつから、各パートを受け持つ歌い手の声が流れる「The Forty-Part Motet 40 声のモテット」と光も入り込まないブラックボックスの中で夜の闇の中、懐中電灯の灯りひとつで下る川の映像を見る「Night Canoeing ナイト・カヌーイング」というものだけ。
「The Forty-Part Motet 40 声のモテット」は各方向からパラパラと声が聴こえてきて、音の彫刻というのがよく判るのが面白かった。流れているのはタリスの多声合唱曲「Spem in Alium(我、汝の他に望みなし)」で、いかにもゴシックの教会音楽らしい輪唱というか、微妙に違うメロディを各パートで重ねることで、重層的な響きになっている曲である。賛美歌隊の真ん中で聴いているような、音楽に包まれる贅沢な気分になれる。言い換えればこういう曲なしにはできない表現だよな。

「Night Canoeing ナイト・カヌーイング」は手漕ぎのカヌーの上から小さなサーチライトがひたすら水面や岸を照らしているというだけの映像。その単調さから意識が拡散してきて、本当に一緒に進んでいるようになんとなく進行方向に頭を傾けてしまう。たまにサーチライトが反対側を向いたりすると、頭の中の方向がぐりんと反転しておかしな気分になった。
本当のことをいうと、銀座のエルメスといえば一面ガラスブロックの外壁! なわけで、まずその建物に入ってみたかったのである。構造形式は鉄骨のようだったけど、思ったより柱が細い印象であった。あと、エレベーター内部が革で張られていたのが、さすがエルメス。ガラスブロックで覆われているだけあって、二階分吹き抜けになっている会場内部は光に溢れ、その雰囲気に教会音楽が妙にマッチしていて面白かった。いいなぁ、ガラスブロック‥‥。