駒ヶ根の旅1:駒ヶ根高原

先週のことである。
相方さんがめくっていた秋ぴあをかざして、突然「ロープウェイ乗って紅葉見に行こうぜ!」と言いだしたんである。唐突に突拍子もないことを口走るのはいつものことなので、生ぬるく調子を合わせて「へ〜、何処にぃ?」と聞き返したら、駒ケ岳の千畳敷カールだという。駒ケ岳といえば日本アルプスである。ちょっと思いついて紅葉狩りに行くには、かなりディープな選択だ。こう見えても私は学生時代には観光業について学んでいたことがあるんである。その後、方向転換して全く違う分野の職業に就いたが、薄ぼんやりとした半透明の時間の幕を隔ててはいるものの主立った観光地の概要にはなんとなく当たりがつく。その場では口にしなかったが、それはかなりオオゴトだ、と最初に思った。そして結果からみてもやっぱりオオゴトだったんである。
初めは半分冗談のつもりでその場でネット検索をかけ、駒ヶ岳における紅葉の見ごろ時期を確認してみたら、その時点でもう始まっていた。ピークになるであろう次の週はちょうど三連休である。予定もない。GO。
しかしたった一週間前に一大観光地の宿が取れるかどうかが一番の問題である。その場でネット検索をかけると、しかし運良く場所もお値段もお手ごろな部屋が見つかった。さくっと宿を確保。GO。
んじゃ、そこまでどうやって辿り着けばいいのか。その場でネット検索して高速バスを予約。GO。
何故かあれよあれよという間に次の週に長野旅行決定である。この間、2時間足らず。勢いというのは恐ろしい。そしてこの行き当たりばったりな計画を象徴するかのように、決めてから行くまでの1週間のあいだに超大型の台風がやって来て大暴れして去っていったのだった。大丈夫なのか、おい。

  • そんな心配をよそに、当日は朝から快晴であった。新宿発の長距離バスに乗り、一路木曽路へ。

  • 宿の近くにたまたまあった光前寺というお寺に立ち寄ったら、これが実に美しいところで魂抜かれそうになった。燐光を発する光苔と庭園のしだれ桜で有名らしいが、それ以外でも敷地内を清流がとうとうと音を立てて流れ、あらゆる場所が苔の絨毯に覆われている印象。佇まいも好く彫刻などの造形も素晴らしい。石像ひとつとってもなんだか丸みを帯びていながら芯の通った姿が矢鱈格好良い。逆光のグレアが入った写真ばかりで申し訳ないが、ここは機会があったら是非見ておくべき。

  • お寺を辞してアップダウンのある林道を辿る。それってつまり山道ってことじゃないのかい、と息を切らしながら相方さんに尋ねたら、うん、この地図には等高線は載ってないというお答えであった。
  • 周りはどうやら木曾杉生産地のようで、下生えもきれいに手入れされた杉林が続くなかを歩いて、一晩お世話になるペンションWOOD-INNへ。これがハリボテの見せ掛けではなく、本物のログハウスなんである。初めて見たかも。

  • チェックインを済ませたら、ペンションのオーナーが敷地内の隣の建物で喫茶店も経営しているというので、美味しいコーヒーを飲んで一休み。ちょっと肌寒かったので、熱い一杯が身に沁みた。
  • それから宿の近くの温泉施設こまくさの湯へ、ひとっ風呂浴びに行く。『交流促進センター』という看板書きがいい味を出している。

  • さっぱりした所で、これまた近所の南信州ビールが味わえる味わい工房へ、今度は晩ごはんを食べに出掛ける。頼んだのは海老とブロッコリーのサラダ、スモーク盛り合わせ、信州味噌ピザ、そしてど迫力のスペアリブ。地ビールも料理も美味しかった。そこそこいいお値段とはいえ、ボリュームもそれに見合うくらい出てくる。

  • 腹もくちくなりほろ酔いで気持ちよくさて宿へ帰ろうかとぶらぶら歩き出したら、数少ない街灯の他は辺りはとにかく真っ暗なのだが、妙に煌々とライトがきらめいているのが見えたんである。行ってみると、轟々と流れる急流に吊り橋が掛かっているのを発見。へっぴり腰になりながら、酔った勢いでわざわざ往復してみる我々。アホである。


次の日は早朝の出発予定である。何十年か振りによく見える満天の星空を眺めながら宿に戻ったのは夜9時半頃だったが、さっさと歯を磨いて健康的に10時には床についたのであった。
つづく。