エクスキューズ

仕事が忙しい。心を亡くすと書いて忙しい。忙殺ならさしずめ心を殺し亡くす従属殺人的なものだろうか。亡くした心は取り戻せるんだろうか。失したんなら探して拾えばいいが、亡くしたんでは不可逆なのではなかろうか。冥府まで取り戻しに行かねばならないのだろうか。さがしものはなんですか。ふりかえってはなりません。
話を戻すが、忙しいといってもちょっとしたバタバタ程度なので、小山を越えればまたいつものように楽になるはずである。仕事のリズムとしては、こうして丘陵地帯に分け入ってしばらくうねうねと軽いアップダウンを繰り返しながら高度を上げていき、第1の難関である崖を這い上がったら先は少し下り坂になり、それから右手も左手も両脇とも落ちれば間違いなく首の骨を折りそうな具合に切り立った急峻な尾根にさしかかり、あとはひたすら視界のきかないブリザードの中をピッケルを頼りに頂上目指して一歩一歩進んでいくことになる。今のところはその丘陵地帯の中頃くらいなもんである。この説明で伝わるのかどうかよく判らないが、長い現場は時間をかけてキリキリと次第に緊張感が高まっていくのが胃に悪い。
そんなわけで、なんとなく風邪っぽかった喉の痛みも、すっかり忘れていたらいつの間にか治っていたのだった。