DVD:マイマイ新子と千年の魔法(監督:片渕須直)

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

実は初めはなんとなくタイトルのイメージから、ベタベタな子供向けか下手すると萌えアニメのような気がして、食指が動かなかった。それが人づてでかなりいい手触りの映画らしいと漏れ聞いて、俄然観る気になり借りてきて貰ったんである。観てみるとこれが素晴らしかった。映像もだが、清濁併せ呑むとでもいうのか、上っ面だけでない美しさに満ちた佳品であった。
こういってはなんだが、田舎の風景というのは割とどこへ行ってもあまり代わり映えがしない。私は東北生まれだもので区画された一面の緑を目にして自動的に稲だと思い込んでしまったのだが、これは麦畑であることが観ているうちに判ってくる。できるだけ説明を廃しているようで、初めはいつの時代なのかすらよく判らない。田舎の風景というのは、都会と違ってさほど時代にも左右されないからだ。田舎に東京から転校生がやってきて、その子は埋立地の社宅に住んでいる。大事なものはガラス戸のはまった綺麗な戸棚に大事にしまっておく‥‥そんなところから戦後10年ほどだろうか、高度経済成長のトバ口あたりのようだ、などと観ながらアタリをつけていくことになる。しかしご親切な解説はなくとも時代考証というか描写がきめ細かく丁寧なので、ゆっくりと観ていれば自然と判ってくるのが凄い。
ときどきだが、自分がいるこの場所は100年前はどんな風景だったろう、500年前は、1000年前は、と空想することはある。例えばこのお寺が建立されたのが何年だから、少なくともこの路はその頃からあったんだろう、それを取り巻く人里はどんな感じだっただろう、などと妄想にふけるのは楽しい。先ほど田舎の風景は時代に左右されないと書いたが、それがキモのひとつで、1000年もの歴史が詰まった田舎だと、往来などはそっくりそのまま残っている可能性があるということなのだな。
一方で物語は人々がどんどん変遷していく様を描く。ひとところに留まらず、くるくるとめまぐるしく世間の事情によって移動し、一概に良いとも悪いともいえないようなことが起き、または生命が生まれたり終わったりする。変わらないものなど何もない。だが、それでいて人の営みというのは何も変わらないのだ。いつの時代も変わらずにどんどん変わっていく。それが気張りも衒いもなく、ひと夏を通して描かれる。
観終わった後、なんだか良質な文学作品を読んだような気分になった。

マイマイ新子

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