DVD:幸せはシャンソニア劇場から(監督:クリストフ・バラティエ)

幸せはシャンソニア劇場から [DVD]

幸せはシャンソニア劇場から [DVD]

1936年、パリにあるミュージックホールのシャンソニア劇場は、経営不振のため閉鎖となる。30年以上この劇場で幕引きを務めたピゴワルは妻にも逃げられ、息子のジョジョとも引き離されてしまう。失意の日々を送るピゴワルだが、芸人仲間のジャッキーとミルーと一緒に、再度営業を始めようと劇場を占拠してしまう。そこに、歌手志望の美しい娘・ドゥースがやって来る。ドゥースはアナウンス嬢として採用されるのだが…。

とても奥ゆかしい、優しい映画であった。
ストーリーは芸能を取り巻くゴタゴタで、女房を寝取られた中年男が息子もまた取られたり、ひとりの才能ある若い女性を巡って金の力でモノにしようとするジジィと若くエネルギッシュなハンサムくんがつばぜり合いをしたり、借金が払えなくなって立ち退きを迫られたり、いってみれば市井の人々の下世話なことが主題なのだが、抑制の効いた上品な描写と絵になるパリの石畳が背景になることで、まるで絵本のように仕上がっていた。
時代背景は人民戦線が拡大し、労働改革デモクラシー真っ只中の1936年。ドイツでは3年前にヒットラーが政権を奪取していることになる。一触即発のざわざわした空気と古き善き時代のモラルがせめぎあう。
しかし映画の中では金貸しのマフィアまがいの男もつまり女に惚れたただの男だし、女房を寝取った男とは紆余曲折の末に生涯の友となり、別の実業家と再婚を果たして何ヶ月もほっぽらかした息子を引き取るといってきた女房ですら、一方的に悪者扱いするのではなく弱さのある一個の人間として描かれる。そして歌と踊りを楽しむことを文句なしに肯定する優しさ。人生は苦い。だからこそ楽しい音楽が必要なのだ。
人生はままならないことと物哀しさと過ちと、ほんのちょっとの幸せでできている。