がんばってるよ

仙台で社長が夜逃げして路頭に迷ったので仕事を求めて横浜に越してくるとき、原発の設備をやらないかという話もあった。我々の業界でも原発というのはかなり特殊な分野で、専門性の高い技術が要求される。私はそれまでそっち方面はやったことがなかったし、その特殊性にちょっと尻込みをして結局はお断りしたのだった。あのとき受けていたらいまごろどうしていたのかと思うと、ちょっと感慨深い。
私には原発の中身の技術について知識はない。単なる勘とイメージだけの与太話として読んで欲しい。なんとなくだけど、原発はもしあれが潰れるなら、そのとき日本は半分なくなってるんじゃないかな。今回もそれに近いけど、まだ沈んでないしね。
原発の建物というのはうちらのような普通のハコモノを作っている感覚でいうと、想像を絶するバケモノ級なのだ。原発がコンクリートブロックなら普通のハコモノはマッチ箱。それくらいの違いがある。土木の人から見ても、おそらくはケタ違いの堅牢さだろうと思う。それでも地球の地殻活動なんて天文学的なものと比べたら、ちっぽけなものだ。
建設業界はけっこういろんな法規で雁字搦めになっている。実はそれはそれほど悪いことではないと私は思っている。何故そんなに決まりがあるのかというと、平時でも人命に関わることだからだ。この場合の法規というのは建物自体の構造や運用、作業内容などほぼ安全基準についてのものだと思ってくれ。原発なんかはその特性からいってもっと凄いことになってるのは、想像に難くない。
公共事業なんかをやってると、たまにハンパに知識のある担当者がワケの判らない拘りを発揮してくれることがある。だいたいは意向に沿えるよう努力するのだが、技術的にだったり安全性に問題があるときには、一応プロの判断でお断りしなくちゃならない場面もある。そういうときに理由とともに『法的に問題がある』と言えると、物凄く通りがよかったりする。また、技術者がなにを基準に安全性を求めるかといえば、やっぱり法規なのだ。
スタンドプレイしたがってる残念なひともいるみたいだが、言葉は悪いが知識のない文官なんてそんなもの。『事件は会議室で云々』という話題もあったが、上を下にの大騒ぎでその段階はとうに通り越してるだろう。それにあれはドラマだからな。技術者にとっては問題のある箇所をどう解決するかが至上命題であろうし、現時点で出来ることをギリギリまでやっているのだろうし、外野が何を騒ごうが現場サイドには関係ないことは関係ないだろう。現場の組織がどうなってるのか知らんので、あくまでそんな気がするだけだが。
技術的なことを素人に判るように説明してくれというのも、我々の仕事でさえもよく言われて頭を抱えることが多い。原発ではもっと素人には判り難い技術についてなので、その点でも枝野さんは偉いな。しかもこのてんやわんやであろう非常時である。プロが大丈夫といったら大丈夫だと思わなきゃしょうがないところまで文明は進んでいるのだな。もちろん自らの安全について知りたいという欲求は健全なものだし、説明を要求するのを止める気はない。それどころか、私だって自分の理解の及ぶ範囲で判りたいとねがう。
ただ、いままでさんざんっぱら原発の電気を享受してきたのだ。死なば諸共でもそりゃ仕方ないという気分もある。できるところまでは悪あがきはするがな。これをきっかけにこれから原発は廃れるだろうという意見もあるが、もしそうだとしても電化著しい一時代を支えたのは紛れもない事実だ。
現場勤務の技術者のはしくれとして、福島第1原発に詰めている技術者の皆様方には深くご同情申し上げると共に、未曾有の大災害に対しここまで踏ん張ってこられたことにちょうリスペクトである。だが、もしそういう機会があったらの話だが、特攻作戦だけはやっちゃダメだ。