映画:インモータルズ −神々の戦い−(監督:ターセム・シン)

筋肉ムキムキマッチョの群舞ということで監督はザックとばかり思い込んでいたので、観ながらずっと首をかしげていたのだが、後で聞いたら美術担当が『300』の人たちだったそうで、監督は全然違った。落下の王国の人だったのだな。道理でやけに現代美術っぽい書き割であった。
残虐シーンは熊に言わせると申し分ないらしく、でかいハンマーでドゴーン!のくだりなどは下っ腹がキュッとなる思い切りのよさであった。特に最後の30分くらいはひたすら血飛沫が散り首が舞い内臓がブチ撒かれる戦闘シーンが続くので、ゴアシーンだけ見られれば満足という方にはオススメである。
以下、突っ込みは畳んでおく。




難しいお話ではないものの観ながら変に混乱した。
ギリシャ神話のテセウスの逸話で一番メジャーなのが、迷宮でミノタウロスをやっつけてアリアドネと結ばれるヤツだろう。改変されててムリクリ感が強かったけど、一応このくだりは入っていたのよね。逆にそうまでしてこれをねじ込んだのは、想像だが、残酷処刑器具のファラリスの雄牛が好きすぎて、これを使いたかったがために、牛頭のミノタウロスを持ってきたからじゃなかろうか。モチーフを呼応させ反復することで全体に統一感を持たせる技法ってやつで。んで、ミノタウロスだから自動的に主人公はテセウスと。そうじゃなければ本筋のほうは小話持ちのヘラクレスの知られざるエピソードにしたほうが無理がなさそうだし、なによりそんなことを想像してしまうほど両方とも浮いてた。しかしファラリスの雄牛は本当に何度も出てきてたよなぁ、どんだけ好きやねん‥‥。そしたらヒロインは素直にアリアドネにしたらいいじゃないというところを、わざわざマイナーな後妻のパイドラを持ってくるあたり、ターセムさんの厨二病は治ってない。
敵対するハイペリオンって誰だっけ? とあとでぐぐったら初代太陽神ヒュペリオーンのことなのだな。ヒュペリオーンはゼウス一派と戦って負けた、ティターン(タイタン)族の親玉である。あの檻の中で並んで棒っ切れ咥えてた連中が、あのようになったそもそもの原因ね。どうもこのへんが錯綜している。彼がハイペリオン(ヒュペリオーン)だとしたら自分自身が神様なのに神を信じるの信じないのというやりとりも解せないし、テセウスが闘って勝てるわけがない。
三歩くらい譲ってこれがよくある話でただの人間が神様と同じ名前だっただけとすれば、クレタの王てことはミノス王と同義かもねそんな感触だねそうかもねと言ってもよさげだし、だったらややこしいから名前もミノス王にしといてくれよ。つまりミノタウロスが出てくる逸話の王様なわけやね。もっというと牛頭のおとうさんだ。ミノタウロスのおとうさんはミノス、ほら判りやすい。映画では「野獣!」などと他人のように呼んでいたけど、それはアナタの奥さんが生んだ子だから。種は雄牛のだから血は繋がってないけど‥‥あ、てことは他人でいいのか。
蛇足だがついでに、テセウスの父親はポセイドンという一説もある。そんで「父親が海に身投げする」というモチーフもあるのだな。ホントは父親有力候補のアイゲウスのほうの逸話だけども。で、それが混ざってポセイドンが海にドーン、ということだったんかな。んで油の海というのはいつの時代だか詳しいことは知らんが、誰も行ったことがないほどずっと南に進んでいくと油で覆われた海があるという迷信もあるのね。つまりそこはよっぽどな辺境ですよ、という婉曲表現だったのかもわからんね。あと、人間を助けた3神のうちアレスだけが始末されたのは、ギリシャ神話的なパターンでいけば『謝りもしねーで口答えしたから』じゃないかな。
ギリシャ神話のニューエピソードを作りましたというのはいいんだけども、微妙に本歌取りしてる部分やらエピソードやモチーフの継ぎ接ぎがアクロバットガタピシしているのと、最後もアレレもうひとり息子さんいなかったっけ、てなことになっており、作った側の頭の中では辻褄が合っているのかもしれないけど観る側はカンペキ置いてけぼりだぜベイベー。あ、細かいことはどうでもいいすか。要はアレよ、イメージだねイメージ。
しかし断崖絶壁の洞穴にある村などところどころ面白かったものの、全体的になんかこう、発泡スチロールを切ってポスカで塗りましたとでもいうのか、この兜は変な形してるけどシリコンで型取りしたからゴツゴツしてなくて被り心地満点なのというか、妙にせせこましいというか軽いというか薄いというかスケール感がおかしいというか、このあたりを言語化するには私に学がなさ過ぎるのだが、喩えていうならラッセンの絵のような印象であった。こういうのって何が違うんだろうなぁ。素で不思議。最後の戦闘モブシーンはミケランジェロがやりたかったのかなぁ。
ちなみに私の好みではミッキー・ロークの情けなさはよかったけど、他はみんなマッチョといってもバレエダンサーのようなすっきりマッチョで胸板の厚みが足らなかった。まだまだ画面がキレイすぎるわ。