映画:ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日(監督:アン・リー)


乗っていた船が難破し、救命ボートで漂流する羽目になった少年。だが、そのボートには猛獣のトラも乗っていた。物語の概要はこれだけである。最初に平面の映像で予告編を観たときには、とにかくキレイな映像を堪能する映画なんだろうなー、と漠然と思っていた。その後に『ホビット』を観た際に流れた3Dの予告編で、そのあまりの美しさに衝撃を受けたのだった。
これは観ておいてよかった。それもIMAX3Dの効果をこれ以上ないほど存分に味わえたのも素晴らしい。美麗な映像に耽溺する映画という意味では、予想はあながち間違ってはいなかった。しかしこれほどとは。冒頭の深い緑の中で動く動物たちの映像だけで涙が出てきそうになった。動物好きには堪らないのではなかろうか。そして1艘のボートでトラと共生する話だというのに、野生動物を飼育するということについて、この映画にはファンタジックな甘さは一切ないのである。
いままで3Dは空を飛ぶのが最高だと思っていたのだけど、深い水の中の浮遊感はまた違った感動があった。初めのほうの世界一美しいプールと、難破した船が光りながらゆっくりと落ちていく千尋の海のシーンでいえば、場面としては片方は明るく他方は暗くそれぞれ受ける印象は違うのだけど、どちらも空気中の忙しなさとは違い、重く時間の感覚すら変わるような水の質量を感じさせる。水は怖い。真空と同じくらい怖くて美しい。そして人間は水の中では浮くことが出来るのである。
一瞬で観るものの感覚を変える美しい映像の力もさることながら、お話も実はそんなに単純なフィクションに収まらなかったのには呻ってしまった。なんというのだろう、心の深い部分の感覚的なところをもっていかれる映画であった。