GW前哨戦

大型連休が迫っている。既に皆勤が決まっている手達の先輩方は妙に晴れ晴れとした目つきで心安らかに過ごしているのだが、私は未だ熾烈な牽制合戦の真っ最中である。これまではだいたい勝ち取ってきているのだが、戦況は年々厳しくなってきており気が抜けない。
頭上からズメンイッパイの網が被せられるのを切って捨て、ブイチヒロイの突きを受け流し、低い位置からタンカウチワケが足元を狙うのを飛び退ってかわす。敵もさる者、だんだん技の種類が増えてきて間断ない攻防で消耗戦を強いられる。一度でもミスをしたら追い詰められるだろう。腰を落とした摺り足でじりじりと左へ移動しながら間合いを計る。こちらから撃って出ることはない。ひたすら相手の動きを読み、先回りするだけである。
つ、と相手が動いた。
思い切って踏み込み、土を蹴る。
ざっと風が吹いた。
潮時である。私は虚空に身を躍らせた。相手の木刀が宙を切る。それを左の足裏で受け止めそのまま踏みつける。更に右足を掛けると梃子の作用で木切れは真っ二つに折れた。飛び散った破片が頬を掠める。相手の手を離れた残りの半分が鋭く回転しながら眼前に迫る。それを避けるために腰を矯めのけぞる姿勢をとろうとしたとき、足元で折れた木刀がごろりと転がった。
否やと思う間もなく後ろ頭を強かに地面に打ちつけていた。白い火花がちらちらと闇に瞬き、やがて消えた。鼻の奥に鉄の匂いを嗅いだ気がした。