『予告された殺人の記録』G. ガルシア=マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

27年前のある朝に起きた殺人事件を巡り、それについて関係者に証言を聞き取り調査した体裁になっている。
続けざまにラテンアメリカ文学を何本か読んだけども、やっぱり私はガルシア=マルケスが好きだな。『百年の孤独』もいつまでも読んでいたいほどとにかく好きで、これが苦手な人もいるというのが頭では理解できるけどもなんとなく信じられない心地がするくらいである。元ジャーナリストという経歴のせいか、文章は明朗なのだけど中身は猥雑で不条理さに満ちている。この『予告された殺人の記録』の調査を報告する形式などはお手の物なのだろう。緊迫した状況を描き出しつつ、ほぼ30年も経っているので鳥瞰図のような距離感も保っている。時の流れに身を任せる、どこか達観したような不思議な感じが好きなんだな。
当事者にとっては身も世もない大事件である。取り返しのつかないことというのはどういう類のことなのか、一方で時が経てば案外癒える傷というのもあったりする。視点を変えて何度も何度もその朝の出来事をなぞるうちに、皆が志向しつつ何故か果たされなかったことが浮かび上がってきて、そこにマルケスの皮肉さや世の中を斜めに見ているような視線を感じる。さて一番気になる真実はというと、それは藪の中なのである。そういうものだ。