『ギルガメシュ叙事詩』矢島 文夫 (翻訳)

ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)

ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)

世界最古の文学といわれている。古代メソポタミア文明アッシリア遺跡から出土した粘土板に楔形文字で記されていたもので、紀元前2000年頃には成立していたとみられている。
これがとても面白い。興奮するほど面白い。通勤電車で読んでいてつい乗り過ごすほどひきこまれた。読む側に古代史への興味が前提にあったのは確かだろうけども、それを除いてもなお力強い叙事詩であり抒情詩でもある。土の匂いがしてきそうなほどの野趣があふれ、その中での苦しみ哀しみがストレートに伝わってくるのだ。詩というのは無駄をそぎ落とした先にあるというのはこういうことか。白状すると本を読むわりに言葉フェチではなく、詩というものがよく判らない。詩なら和歌のほうがまだ感情移入できる。その違いがなんなのかよく考えてみたことはないのだけども。そんな朴念仁でもこれはなにがしか心に響いてきたのである。ところどころで散文詩のように文言が繰り返されたりする。朴訥とした中でそうすると雄々しい男泣きの感情が溢れ、じんわりと感動が胸に広がる。大事なことなので2回言うというのは、案外そんな効果もあるものなのか。そんで男は殴り合って仲良くなるという類型の始祖もみた。
あと洪水の部分はやっぱり興奮したね。旧約聖書メソポタミアとの関連を指摘されているが、ノアの箱舟と対比される大洪水の描写が出てくると、これがあれの元ネタなのかと感慨深い。幼少の頃にノアの箱舟の話を読んで、丸い地球の陸地部分が全部水没する洪水ってこと? と首をかしげ、水が引き始めたので鳩を放したら葉っぱをくわえて戻ってきたという箇所を読んでは、世界で一番海抜が高い場所ってエベレスト? と頭をひねったものだが、それは世界人口50億人(当時)で地球上にくまなく人類が行き渡っているのが当然だと思い込んでいる子供の浅はかさというものである。古代メソポタミア文明のころならまだ世界の人口は1億人程度で少ないし、生息域にも偏りがある。エジプトや黄河など他の地域で発展した文明とは遠く隔たっていたのだから、そのへんの流域でいくつもの集落がのきなみに流されるような洪水が起きたら(実際に紀元前2800年頃に大規模な洪水があったらしいことは地層からいって明らかだというし)そりゃ世界が終わるに等しいだろう。世界を飲み込んだ大洪水というのも嘘ではなかったんだね、と密かにほくそ笑んだのだった。
あまり妄想に傾倒しても仕方ないのでこれくらいにして、今度はイロコイ族による1万年分もの口承史を読んでみようかな。
一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

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