『HhHH(プラハ、1942年)』(ローラン・ビネ)は読み終わっていた

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

憧れと抑制と知らず知らずのうちに受ける影響と。対象者を見たり触れたり聞いたりする回数が多ければ多いほど人はその人に好意を抱きやすくなる『親しみの法則』というのがある。最初は共感しにくかった主人公でも、読み進めるうちにいつの間にか応援していることはよくある。この本ではナチにおけるユダヤ人大量虐殺の首謀者ラインハルト・ハイドリヒを追うのだが、どんなにつぶさに語られてもまさかこの人物に好意を抱くわけにはいかないので、なんとなく自分にブレーキを掛けながら読むことになる。ねちっこく詳細に正確に語りたがる作者の立ち位置に不安を覚えるころ、ハイドリヒ暗殺作戦に抜擢された部隊が登場してほっとする。こっちには思う存分に共感していい、といままで抑えていた分が一気に解放されて暗殺の成功をより強く願うようになる。なので後半は非常に面白いのだ。
稀代の悪人を追うのは、かように危険な行為なのである。それを自覚しつつ読んで自分が複雑な心境になるのを楽しめる1冊である。
これで積感想が何本になったのか、もう数えていない。むしろ最近→古い順に遡るか。