近況と『目撃者』

最近ようやく余裕が出てきたので、夏物衣類をまとめて洗い、寒風にさらしまくった。私が洗濯をするのは休日以外は夜間だ。夜のうちに干して、次の日1日干しっ放しでまた夜に取り込むのである。夏服もまさかこんな気温で1日中外に放置されるとは思うまい、この薄っぺらい夏物め、とほくそ笑みつつ、嗜虐的にどんどん干していく。寒波から降ってくる風に煽られ、寒さに弱った蝶のようにヒラヒラとはためく季節外れの洗濯物。これが終わって衣装ケースへ仕舞ったら今度は大掃除の時期である。大掃除。するのかなぁ。我が事ながら未だに半信半疑である。
多忙にまぎれて滞った日常生活を回復しつつ、借りっぱなしになっているDVDを少しずつ消化している。ハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985年/監督: ピーター・ウィアー)を観ていたのだが、これがアーミッシュの生活を細やかに描いていて実に面白かった。移民当時の生活様式を守り、ドイツ古語を話すアーミッシュ。以前からそういう信仰集団があるのは認識していたけども、固い信仰からこうまで争いを忌避しているとは知らなかった。
ハリソン・フォード演じる俗世間の刑事ジョン・ブックが事情によりアーミッシュの未亡人レイチェルと息子サミュエルの家へ転がり込み、しばらくそこで生活する様が描かれる。刑事とアーミッシュの女性が恋に落ちるし、外部から持ち込まれたラジオで音楽を聴いて楽しむ(アーミッシュは讃美歌以外の音楽も否定している)などのくだりがあるためか、この映画自体はアーミッシュの人々にはあまり好意的に受け止められてはいないらしい。しかしそこはそういうことにしないと話が成り立たないだろうな。それ以外はアーミッシュの人々を変に持ち上げるでもなく、逆に貶すでもなく、淡々と描いていく。村総出で納屋を建てるところはモネの絵のようで、レイチェルがうつむいて家事をする姿はフェルメールの描く農婦のようだ。刑事が巻き込まれた汚職事件との対比もあって、そういう暮らしぶりや光線の加減が素晴らしくも美しい。ヒロインも美しいんだが、サミュエル役のルーカス・ハースがまるで天使だ。綺麗な男の子だなぁ。また、ゆったりした音楽も心地いい。
話の流れで最後は悪者との銃撃戦になるのだが、そのとき「争わない」アーミッシュはどうするのか。母親はもちろん反撃などしない。坊やも機転を利かせて何をするかといえば、鐘を鳴らし村人を集める。集まる村人も農具なんかを持ってくるのかと思えば、手ぶらでぞくぞくと集まってくる。そうして困惑顔で悪者を取り囲むのである。暴力でやっつければ溜飲が下がる場面だが、銃はおろか誰も罵ったり殴りかかったり押さえつけたりしない。だがそれだけで目撃者を殺して犯罪行為を隠蔽したかった犯人は衆目にさらされたことを悟って諦めるのだった。期せずして観ている自らの穢れ具合を浮き彫りにされつつ、実に辻褄の合った解決法に唸る。古い映画なので牧歌的といえばその通りなのだが、最近流行のしつこく生き返ってとことんまで殺し合うよりこっちの方が落としどころとしては妥当だよな。

刑事ジョン・ブック 目撃者 [Blu-ray]

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