4〜7月あたりに観た映画

グランドフィナーレ(監督:パオロ・ソレンティーノ イタリア・フランス・スイス・イギリス合作)


やたら雄大なアルプスをバックに高級療養所で往年の作曲家と映画監督が延々と与太話をしている。前立腺肥大で今朝はおしっこが出たとか出なかったとか。娘がヒスって「ここで大声出すわよ!」と言い出すんだが、周りは人っこひとりいない山道だったりとか、ちょこちょこ可笑しいシーンと、放牧された羊のベルと木々が風に揺れる葉擦れによる音楽などこれはいいなぁというシーンが同居している。
ひとつひとつのエピソードが味わい深く、それぞれの人生において最後に大事なものは何だろうか、意外と普遍的な答えなどなくて人それぞれなのかもしれない。しみじみとする。

レヴェナント:蘇えりし者(監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ アメリカ)


2時間半あって長いっちゃ長いんだけど、退屈しなかった。バードマンの監督だったのか。バードマンは私にはイマイチだったし、あの独特な幻想と現実のごちゃまぜや、ぬめっとした燃えない盛り上がりなどの雰囲気は通底しているのだが、レヴィナントにはとても合ってたと思う。話は開拓時代の雪山サバイバルで、成功したひとり八甲田山。この感触はなんか懐かしい感じだ。よくあるよね、アメリカ文学の素朴なアレで湖にキャンプに行く文化のマッチョでネイチャーなやつ。具体例が出てこないけどアレだよ。なんだっけ。
行く先々でズタボロになりながらサバイバルしていくのは、わりと嫌いではない。アングロサクソンってマゾかと思うほどこういうの好きだよね。えもいわれぬ根っからの蛮族感。そしてフランス人がえげつなく描かれているのが興味深い。あとクマ。クマ怖い。
音楽はちょっとうるさく感じた。クライマックスのズンドコやりすぎには笑ってしまった。

デッドプール(監督:ティム・ミラー アメリカ)


面白いほど趣味が真逆な人がtwitterで褒めていたので、少々不安になりながら観たのだが面白かった。好みの傾向が似ていてこの人が面白いといったものはだいたい私も面白いという人もいて観る映画を選ぶ参考にしているのだが、逆に私が楽しめた映画について合わなかったと言っていたり、イマイチだったなーと思ったのは最高だといってたりで、見事なまでに好みが正反対な人もいてこれまた別の意味で参考にしていたりする。いろんな人がいるよね。しかしここで好みが合ってしまった。これから何を基準に選んだらいいんだろう。
そんな超個人的な事情はどうでもいいが、このヒーローはあくまで超個人的事情で動いていてそこが最高だった。キメないキマらない、何をさせてもちゃらんぽらんなあんちゃんである。非合法コミのヤクザな商売で稼ぐ男と場末のストリッパーが出会って幸せな恋に落ちるというのもいい。幸せにスペックなんぞ関係ないんじゃ。

アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅(監督:ジェームズ・ボビン アメリカ)


前作のアリス・イン・ワンダーランド不思議の国のアリスではなかったように、鏡を抜けて不思議の国に行く今度も鏡の国のアリスではない。というか、不思議の国と鏡の国を体験したアリスが前作で不思議の国に戻ってきたという設定なので、この続編はさらにその次の話ということになるのよな。
くるくると場面の変わる豪華絢爛なティム・バートン節(今作はプロデューサーだそうな)で大変楽しゅうございました。

帰ってきたヒトラー(監督:デビッド・ベンド ドイツ)


物凄くストレートなヒトラー映画だった。
原作はヒトラーの一人称なのね。なるほど、ヒトラーへの共感がキモになるわけだ。
しかしヒトラーを描くには戯画化するしかないわけで、出てくるヒトラーはコメディアンになり、この映画自体もコメディ。フィクションだけどドキュメンタリーとの境目が曖昧になっており、撮影時に周囲の反応も撮っていたようで、ところどころモザイクのかかった一般人も映りこんでいる。戯画化しながら、ふと真顔になって、そんでそれがどう作用していくか、という話。
最後の落としどころは、まあそうなるしかないだろうなという反省で締められるんだが、状況は実は、というちょっとホラーな場面で終わる。
いまの焦点は移民問題なのねぇ、というのがよく判る映画であった。

ウォークラフト(監督:ダンカン・ジョーンズ アメリカ)


ゲームはしないのだが、いわゆる世にいうファンタジーの世界観だったら一般常識だけあればだいたい大丈夫じゃろ、と観に行ったら大丈夫だった。
オークが書き割りのような『悪役』ではなくて、集団内でも氏族があり軋轢もありの一枚岩ではない当たり前の複雑な背景になっているのが新鮮だった。人間連合側もオーク側も個々がそれぞれの利害や立場に沿って動いており、誤解したり裏切ったり和解したりと流れに無理がない。この辺の描き方は敵がオークじゃなければ歴史物にも通じるような出来だ。
それに加えてオークの小気味よいパワー押しが炸裂し、魔法も見せ場がありつつ万能ではない使い勝手の悪さもきちんと嵌ってバランスがいい。これは良いものを観た。