映画:オン・ザ・ミルキー・ロード(監督:エミール・クストリッツァ)


まさかこんなに哀しい映画だったとは。
クストリッツァの映画は途中経過を眺めているときはどう解釈したらいいのか迷うような訳の判らない描写が多くて、感想が形になりにくい。背景となる文化の違いでモチーフに対するイメージが共有されていない感じもする。だけど映画が終り、エンドロールになった途端に卒然と「そういうことだったのか」と伝わってくるのが不思議なのだ。今回のオン・ザ・ミルキー・ロードは「なんと哀しい」だった。ひと言で表現できるほど単純な感情だが、その内容はとてもひと言では言い表せない。だから映画という手法なのだろうけど。
結論として哀しい物語だとしても、途中もずっと物哀しいわけではない。それはそうだ。紛争中だって長引けば人々は日常生活を送らねばならないし、生活していれば笑いも愛も自然発生していく。狂った地盤の上に乗ろうとすると狂ったバランスで均衡を保たねばならなくなる。すべてが狂ったバランスでそれが噛みあって物事が進んでいく。そのさまがシュールを通り越してマジックリアリズムに昇華されている。合間にガチョウはガーガー、豚はピギィ、ハヤブサが飛んで蛇が巻き付く。なんなのか。
後半の逃避行が幻想的で美しい。その美しさが結論の哀しさに結びつく。最後の美しい風景の中にロバがいて良かったなぁ。