最近の事情

身内に不幸が出てしばらく浮世から離れていた。ところで去年から引越しのタイミングを見計らっていたのだが待っててもいいときなんて永遠にやってこない。ちゃちゃっと引っ越しちゃおうと実行した次の日に呼び出しがかかるという、ちょ、生前からそういうとこあったけど、ああもう、仕方ないな! ととるものもとりあえず熊に後を託して地面を蹴って常世のとば口に馳せ参じたのだった。とばっちりで忙しい思いをさせた熊よ、すまん。いつもありがとう。
さて行ってみると常世絡みだというのにやることはまさしく浮世のしがらみで、あれやこれや顔色を窺いながら手間仕事を請け負っていたが、現場の端境期に詰め込んだ資格の更新やら申込みも立て込んで、引越しの番狂わせも加わって、あれ、デスマーチは終わったばっかじゃなかったっけ、と遠い目になった。行ってみれば何もできずに待たされ、それがキツくて一度帰ったらやっぱり呼び戻され、高速をひた走る夜空は折しも皆既月食で、こんなときでなければ新居のベランダから呑気に月を眺めていたはずだったのに、やはり天変地異は凶兆の表れなのか。そして改めて故人はつくづくスーパーウーマンだったなと追認し、今まではこういうこともひとりでちゃっちゃか始末していたのだろうなぁと感慨に耽ったのだった。
最優先の常世への行事が滞りなく済んで精神的にも疲れ果ててやっと帰り着いたら、家中にダンボールが山積みで座る場所もなく照明すら取付けていない。かろうじてカーテンは掛かってたし布団を敷ける隙間もあったのがせめてもの救いか。寒々しい部屋の片隅で台所に備付けの白っぽい蛍光灯が煌々と光る中、ガス台に元栓からガスホースを繋ぎ、ひとり用の土鍋に非常用のアルファ米と水道水を注いで火にかけ作った雑炊を啜り込む。腹が温まったところで痛む腰を後ろ手に叩きながらぼちぼちとベッドを改造した座る場所を組み立て、ダンボールの山からコーヒーメーカーを発掘して熱いコーヒーで一服。それからやおら立ち上がり照明を組み立て脚立に上ってシーリングに引っ掛けた。これでお先真っ暗な穴ぐらが立って歩ける場所になった。明るくなると今度は片付いていない箇所が目に付くようになるわけで、だらだらと気の向くまま手を動かしたり座り込んだりして夜を過ごしたのだった。

なんだか疲れて溜息が出る。あのように生きることは到底出来ぬけども、いろんなものを取りこぼし失敗しながら私なりにぼちぼちやっていくしかないのだ。コメント欄は閉じておりますのであしからず。