読み中:「旅涯ての地」(坂東真砂子)

物語はタルタル人奴隷の夏桂(かけい)によって語られる。タルタル人(蒙古人)と呼ばれるけれども、本当は南宋人の父と日本人の母を持つ。でも舞台になっている13世紀のヴェネチアでは、東洋人は全部「タルタル人」になってしまう。いつも冷静で斜に構えていて、腹の中では様々な思惑が動いているのだけど、言葉がよく判らないという誤解を解かずにいたほうが生きやすいから黙っている。
今は奴隷になっているけど、元は花旭塔津(はかたつ:博多)で商人をしていた父のあとを継いで、大陸と日本を行き来しながら羽振りのいい暮らしをしていた。元寇の絡みで奴隷になった同郷人を、父親が黙っていられず逃亡を助けたのを咎められ、たまたま出掛けていた夏桂を残して一家全員が処刑される。逃げ出した先の慶元で、妻も娶りしばらく落ち着いた生活をしたものの、妻が産褥で死ぬとまた流れて、こんどは泉州で密貿易を始める。それが摘発されて捕まり、奴隷として売られたところを買ったのが、マルコ・ポーロの一行で、ヴェネチアまで連れて来られたというわけだ。
そんな波乱万丈が、現在の物語にぽつぽつ挿入されながら語られるのが導入部。夏桂の鋭い観察と日本人の目で、ヴェネチアの風物が語られるので、判りやすいし読んでいて楽しい。ポーロ家の人々がまた、大家族だし叔父やら甥やら妾腹やら、入り組んでいるのだけど、キャラが立っているので何とかついていける。
物語はポーロ家の人々が探してたという「聖杯」をめぐり、カタリ派キリスト教の民衆運動。カトリック教会によって異端として厳しく弾圧された)が絡んできたり、ゴシップありアクションありでなかなか息をつく暇がない。カタリ派の話は佐藤賢一の「オクシタニアオクシタニア」で読んだなぁ、あれもかなり面白かったよなぁ。
文体自体はわりと硬いし、ぎっちり詰まっている感じで読み応えがある。題材を歴史にとったものも好きだし、ストーリー性の強いものがより好みなので、わくわくしながら読んでおります。あと三分の二ぐらいかな。