読了:おとうと(幸田文)

おとうと (新潮文庫)

おとうと (新潮文庫)

高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは、三つ違いの弟に母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた、看病と終焉の記録。
新潮社公式

著者の幸田文(こうだ あや)は幸田露伴の次女である。ご本人は酒屋に嫁ぐが十年後に離婚、娘と共に晩年の父のもとに帰る。文章を発表しだしたのは父・露伴の没後であった。この『おとうと』も自伝的ともいわれるが、小説として読むのがいいだろうと解説には書いてあった。
どこかの箇所を試験問題で読んだことがあるような気がする。とてもきめ細やかな描写で、心の襞や微妙な状況をするすると紐解き描いていくのは一読の価値ある名文。死病に冒された弟を看病しつつ、若さをもてあましながらも鬱憤を呑み込む姉の姿が切ない。
実家にあったが良く覚えていない本である。こういう古い本を買うときは、なるべくわざと古い版を買うようにしている。旧仮名遣いや柔らかい紙のぺらぺらさが、より時代の香気を伝えてくれる気がするからである。