天ボケ日記

土曜日、三ヶ月に一度の歯医者の予約が入っていた。
始まりは寝坊である。すぐに出ればギリギリかな、と思われる時間に目が覚めた。慌てて家を出る。
最寄り駅のホームでルート検索をかけ、予約の時間に十分くらいは遅れてしまいそうだが、電話一本入れておけばそれくらいは待ってもらえるだろうとたかをくくる。次の電車に乗れば大丈夫。
程なくして電車が到着し、乗り込み、動き出す。ドアの上には次の停車駅の電光表示‥‥ん?
あれ、なんで反対方向に乗ってんの?
自宅からの最寄り駅である。毎日利用している駅である。そもそも普段から繁華な方向へしか乗らないし、このときもいつもと同じ方向へ乗ればよかったんである。反対方向の電車に乗る習慣はまったくない。
なのに何故。こういうときに限って。
次の駅で降りて乗り換えても、最初に乗ろうと思っていた一本とは既にすれ違ってしまっている。乗り継ぎの時間の関係で、これで遅刻三十分は確定である。
こりゃダメだ。諦めてその場で歯医者へ電話を入れると、日にちを変えましょうと一ヵ月後にリベンジするよう指示された。とほほ。仕方ないのでそのまま自宅の最寄駅に戻り、駅員さんに申告してパスモの処理をしてもらい、とぼとぼと自宅に戻った。
しょんぼりと掃除と洗濯をして、次の約束のために今度は自宅から少し離れた駅へ。歩いて三十分である。歩かなくてもいいのだが、とにかく歩くと三十分かかるんである。
で、駅についてパスモを探すと、出てこない。
あれ? 最寄り駅で処理してもらって、その後、部屋においてきちゃった?
おかしいなぁ、出掛ける準備をしたバッグから出してないはずだけど。仕方ない。歩いて三十分の道のりを取って返すわけにもいかない。次の約束も若干押し気味である。切符を買って電車に乗る。
その駅は各停しか停まらない。別の駅で特急に乗り換える。
座れなかったのでつり革に摑まって本を読んでいた。そして何駅か過ぎた頃、目の前に座っていたおにいさんが急に床から何かを拾い上げ、私のほうへ差し出した。
あれ? パスモだ。
記名式の間違いなく私のパスモである。
見つかって良かったけど、なんで? どーして?
探したのに。バッグもポケットも。しかも各停から特急に乗り換えてるのに、何故今ここで落し物として出てくるの。
よく判らないけど、どうもありがとう。いや、なんとなく。まだ生きていけるかなと思った。