隠し部屋

近ごろのマンションには小洒落た間取りのものがあるな。
中でも、二帖ほどの書斎がリビングにくっついているものが、私の気をひく。といっても入居する予定はないので、気に入ろうが惚れ込もうがあまり実のない話なのだが。
あまり住居の広さには拘らない。荷物も少ないし、一人で住むならビジネスホテル級で充分だ。むしろ狭い方が落ち着く。関東間で四畳半くらいが丁度好い。あ、でも工作するには六畳ぐらい欲しいか。
先の書斎がある部屋も、1DKのおまけのようだった。このちょっとした隠し部屋というか、こじんまりとした空間に妙に魅かれる。もちろん、子供の頃は押入れが好きだったクチだ。狭い空間を好むのは胎内回帰願望とかいうが、そりゃあるな。世知辛い世の中から、たまには裸足で逃げ出したくて堪らなくなることもある。
唄の文句ではないけれど、私が家を建てるなら小さな家にしようと、時々夢想する。この癖は子供の頃から変わらなくて、自分が将来住む家の間取りを考えるのが好きで、よくノートに落書きしたりしたものだ。
現在はより具体的になって、明るい玄関にしてホールにはびっしり天井まで本棚を作ろうとか、本棚が出来たら好きなだけ本を買おうとか、皮算用以前の妄想を繰り広げている。
しかしよく考えてみると既に三十も超えていて、夢想を現実に移すべき時期がとっくにきているのに、それに足る力は未だに手に入れてない。
そんなことに気付いた残業明けの宵。