頭に血がのぼる

眠気が澱のように溜まっている。
ぎりぎりまで活動を抑えているような、最低限しか内臓が動いてない気がする。筋繊維の間に溜まった乳酸が放置されている感覚。
泳ぎたい。いま水に入ったら溺れそうなぐらい眠くて三半規管も機能していない気がするけど、四肢を伸ばして筋肉を使いたい。
それにしても泳ぐときのあの水着という身体を締め付ける代物は何とかならんものか。素っ裸で体毛も贅肉も頭髪もひんやりした水にまかせてたゆたうことが出来れば、とその開放感を想像する。
そう想うときに頭に浮かぶのはいつも海ではなく、郷里に程近い山深い渓谷のみどりの深淵だ。東北の、真夏でも鬱蒼たる木々の翳で太陽の届かないあたりは汗が引っ込むほど涼しい。そこに口をあける温度を色で表したような透き通った吸い込まれそうな深緑色。本当は水はひんやりなんてものではなく、身体を浸して数分で体表の感覚がなくなるほど冷たい。流れは決して速くはない小さな川なのだけど、劇薬のようにうっかり取り扱いを間違えると命取りになるあやうさがある。体温を奪う魚の冷たさ、温度のない世界。


鼻の奥が生温かい。鼻血が出そう。朝からチョコを食べたせいだろうか。ひんやりしたい。ていうか、眠い。