樹のトンネル

天気が良いせいか、落ち着いてきている。
折り取った木の枝を身体中に括りつけて擬装を凝らしていたのが、払われたようにぼろぼろと枝葉が落ちていく。それに伴って荷物が軽くなり、半端に目の前を塞いでいたものが取り除かれて視界が利くようになる心地がする。調子を崩した後はいつもそうだ。いつの間にやら自ら厚い防御装置を背負い込んでいる自らの姿に急に気付くんである。
渦中でそれが役に立っているのかどうか知らないが、少なくとも薄暗いジャングルから平和に拓けた場所へ出れば、森林仕様は不似合いになるし必要ないどころか滑稽な装束で却って目立つ。そうなったらわさわさと枝を背負って歩くのは、重いし嵩張るし難儀なだけである。黄色い太陽が空にかかっている。
あとは煤けた顔を洗いさっぱりしたら、何事もなかったかのようにしれっと道の続きを歩いていく。
たまに迷い込む獣道の緊迫感、足元の覚束なさ、視界の利かなさ。前へ進むも後ろへ退くにも下生えが足を切り張出した枝が行く手を阻む。蛇が這い羽虫が飛び蛭が落ちてくる。あるかもしれない得体の知れない天然の毒や奇怪な声や物音が精神を追い詰める。本来はそれらすべてがナマの生そのものである。
拓けた場所を歩くときでも、危険なものが消えて無くなるわけではない。ただ、少し遠くなるだけ。
樹冠を渉る身軽さがあればもっと楽なのだけど、見晴らしがよくて、飛び移ることが出来て、地上の危険からは守られている樹上の生活は、敏捷な子どものものである。