DVD:96時間(監督:ピエール・モレル)

リュック・ベッソン製作、リーアム・ニーソン主演で描くサスペンス・アクション。17歳のアメリカ人少女キムが、友人と訪れていたパリで何者かに誘拐された。事件発生時にキムと携帯電話で話していた父親のブライアンは、元秘密工作員の知識と行動力で犯人グループの身元を割り出し、娘を救出するために単身パリへ向かう。共演は「X-メン」シリーズのファムケ・ヤンセン、「ジェイン・オースティンの読書会」のマギー・グレイス

とにかく子煩悩なお父さんが娘のために奮闘する映画である。もう娘が可愛くて可愛くて娘を泣かせるやつは許さない! 絶対ブチ殺す! そんな気概を本当に実行してしまうとこうなるわけだ。旅行中に人身売買組織に誘拐された娘を助けるためプライベートジェットを飛ばせるなんてまだまだ序の口である。悪党の一味を追いかけて死なせ、古い友人を脅すために何の関係もないその妻を撃つことも躊躇わない。アジトに乗り込んでいってその場にいた全員をボコ殴りにし銃殺し、誘拐の下手人は捕まえてきて拷問の末、なぶり殺す。ぉおい! いくら悪党だからってオマエの娘ひとりのために何人殺してんだよ!
緊迫感はかなりのもので、見ているとだんだんこちらまでここまでやっちゃって『失敗しました』じゃ腹の虫がおさまらない、などと思い始めてくる。明確に悪いのは犯罪組織である。その片棒を担いだ古い友人もその他の人々も悪いっちゃ悪い。しかしシンジケートが大きくなりすぎ、無視できない勢力となり国際問題まではらんでくると、勧善懲悪では動かないのは世の常である。そんなときに自分の大切なものを守るにはどうしたらいいか。結局、手を汚そうが法を犯そうが貫き通すしかないのである。国や多勢に無勢の予定調和のために我慢するなんて真っ平だ。ギャングだって国にいてまともに生きていても喰えないから、すきま商売のタネを探すのだなんて事情も知ったことか。委細構わず我が道を往く。そういう一本筋の通ったお父さんの話‥‥なのだが、観ていて怖いのは何故だろう。そしてハッピーエンドなのに薄ら寒いのは何故なんだろう。
筋を通すにもかくも狂気じみた思い込みがなければ難しい、そんな世の中である。