読了:古代蝦夷と天皇家(石渡信一郎)

古代蝦夷(エミシ)と天皇家

古代蝦夷(エミシ)と天皇家

酒の席で、奥州藤原はアテルイの子孫。と言っている人がいたのですが、今ひとつピンとこなかったので、そもそもアテルイってどんな人なのか、奥州藤原のルーツはなんなのか、という疑問から手に取った本です。
エミシはアイヌ系の先住民族だった。ふむふむ、これは私の感覚では、割と常識的なことだと思っていたので、特に驚かず。
まず、桓武天皇の頃、日本書紀などに記述のある時代ですが、東北地方は岩手県南部を中心とする「日高見国」という蝦夷の国があった。対する京を中心とする律令国家は、朝鮮半島から渡って来た百済系の人々の国で、勢力を拡大したがっていた。簡単に言うと、ここで陣取り合戦があり、アテルイは日高見国の首領で、坂上田村麻呂に討たれた。
奥州藤原はもともと宮城県南部に勢力を持っていた中央藤原系の子孫で、初代の母親が胆沢地方の豪族安倍氏の娘。胆沢といえばアテルイの本拠地だが、ここには三世紀ほどの空白がある。ただ日高見国が滅亡したあと、なにせアイヌ系と百済系で見た目からして違う異民族だったものだから、公家顔の陸奥守よりも、現場で勢力のある一族を立てたほうが人心を把握しやすいということで、中央政府が現地の豪族を抱き込んで地方長官にした可能性も充分にあるらしい。たまたまその豪族が、胆沢郡あたりの郡領で安倍氏の祖先でもあったとすれば、更にたまたまアテルイの一族であったとすれば、藤原=アテルイの子孫の可能性もないわけではない。
どっちにしても、平泉藤原清衡百済系とアイヌ系のハーフらしい。中尊寺に藤原四代と見られるミイラが残っているが、初代の清衡らしき遺体は、アイヌの特徴を数々備えているという。
あと、巻の最後のほうに、えた・非人と呼ばれる最下層の人々の起源が、強制移住させられたエミシにもあるのではないか、とあからさまに語ってはいないけども、示唆する資料の提示があったり、刺激的な読み物でした。
確かに東北地方にはあまり差別部落という考え方がなく、私個人にしても、小説などで「川向こうの人たち」などの表現を読んでも実感が湧かない。これについて私見を述べると、いろんなタブーに引っかかりそうなのですが。