読了:「エマ」(ジェインオースティン)

エマ (中公文庫)

エマ (中公文庫)

漱石が「完璧な小説家」と絶賛したとかしなかったとか。そう思うと世間や体面に気を配りつつ、理想を求め内省しながら自己を模索する人々の細かい心の機微を書き分けていく様は、「明暗」を髣髴とさせるような気もする。
十九世紀初めの田舎の旧家で繰り広げられているということで、もってまわった言い回しの会話文に癖があり、それが味でもある。
主人公である二十一歳の感受性豊かな若いご婦人の目を通して語られるためか、恋模様を縦軸に展開するあらすじはメロドラマである。丘の上の王子様は若造でとんでもない失策もしでかすが愛すべき人物であり、アルバートさんにあたる人物もイライザほど強烈ではないが憎まれ役も出てきて、一昔前の少女マンガでも全然おかしくない。
それにつけてもエマの素直さ柔軟さよ。自らの失敗を認めたときの潔さったらない。とことん落ち込み、恥じ入るのだ。若干美しすぎて引っ掛かる気味はあるが、それは醜い私の僻目ってもんだろう。ああ、若いって素晴らしい。
しかし心配性の父上がことあるごとに「お風邪をひかねばよいが」とか、何か人に勧めるたびに「健康に悪いということはないと思うのです」と付け加えるとか、今の感覚に照らすとどうしてもコントのようだと思ってしまうのだが、私がひねくれすぎなんだろうか。