映画:インビクタス/負けざる者たち (監督:クリント・イーストウッド)

ネルソン・マンデラ氏が南アフリカ共和国の大統領に就任したのは1996年。たった14年前である。私が子どもの頃、南アといえば最高のダイヤモンドと最低な悪名高きアパルトヘイトの施政国家であった。南ア製品をボイコットする市民運動もあって、パイナップルの缶詰を買うなという話が回ってきたことがあったっけ。硬派なひとたちは南ア製品を置くスーパーもボイコットするといっていたな。
マンデラ氏は反アパルトヘイト運動により反逆罪として逮捕され26年もの間、刑務所に収容されていた。彼の前の大統領であるフレデリック・デクラークとともに人種差別撤廃に尽力し、ノーベル平和賞を受賞した人物である。
イーストウッドの新作だが、前作の『グラン・トリノ』、前々作の『チェンジリング』よりも更にストレートなお話である。実をいうと私はスポーツ中継、特にプロレスを初めとする格闘技番組があまり好きではない。それというのも選手の人物像をゴテゴテに飾り立て、宿命の対決だの因縁の泥沼だの悲願だのあざといお涙頂戴のストーリーを付加して必要以上にゲームを盛り上げようとする演出が気に喰わないからなんである。ああ、面倒くせぇ。
勝負は水物なので、弱小チームが勢いの波に乗ってあれよあれよと勝ち進んでしまったり、まさかの大逆転が起きることもある。それがスポーツの醍醐味ではある。しかしそうそうドラマチックな番狂わせなど起きないし、だからこそ起きたときには拍手喝采したりもするのではなかろうか。下手な演出など無いほうがいい。
この映画はゴテゴテのお涙頂戴に転ぶかドラマチックな番狂わせになるか、まさにそういう演出の際にある。しかしこれは映画であるし、本気のスポーツに泥を塗るような演出とはいえないだろう。マンデラ氏の政治的な苦労とラグビー南ア代表・スプリングボクスの努力が絡み合い、素直に勝利への一本道を突き進む感動作となっている。正直なところ、クライマックスの接戦で白人も黒人もなく応援に熱狂する人々の熱気に当てられて涙が出そうになった。ああ、人間って闘うのが好きなんだなぁ‥‥。


ところで映画の中での対戦相手ニュージーランド・オールブラッグスでは試合前に選手がハカを踊る伝統がある。ハカというのはマオリ族の戦士が戦いの前に踊るものであり、手を叩き足を踏み鳴らして叫び、自らの力を誇示し、相手を威嚇するのだそうな。