映画:第九軍団のワシ(監督:ケヴィン・マクドナルド)


時は西暦140年、辺境ブリテンで繰り広げられるそれぞれの誇りと矜持をかけた闘いである。ローマ人兵士のマーカスは過去に失ったローマの紋章であり軍団の旗印であるワシの像を取り返すために、ブリテン人奴隷のエスカとともにハドリアヌスの長城を越えて北を目指す。続編ではないけども、映画『センチュリオン』の次の世代の話になるんだな。
冒頭の赴任してきた新しい隊長の描き方がよかったな。どんな人物か端的に表現しながら、物語の端緒を作っている。ローマ人にとって父の汚名を雪ぐのが大事なように、氏族社会での決まりごとや敵に舐められないための言動は生きる知恵であろうし、誇り高く勇敢であるという証明は敵味方に関わらず示威として機能する。そういうところをちゃんと描いていて、単純にどちらが正義という話にもっていかなかったところも好感が持てた。
単館ロードショーというのでもっと地味なのかと思ったら、戦闘や部族の祭りのくだりもいいし、役者の面構えもよかったし、ロケーションも素晴らしいし、あ、爆破(っぽい)シーンもあったよ。緩急つけた筋運びもしっかりしててかなり面白かった。
当時の大ブリテン島の北部で戦っていたのはピクト人らしい。彼らのことはよく判っていないのだそうな。考えてみればアーサー王より前の話だもんな。ローマ兵が「塗られた、絵の描いてある人」という意味の言葉で呼んだことからピクト人という名で知られていて、いまでも残っている石に刻まれたケルトっぽい文様は彼らのものといわれている。のちに流入したスコット族、デーン人、アングル族と混ざり合い、現在のスコットランド人の祖先のひとつとなったようだ。