生還

残務処理が少々残っているものの、どうにかこうにかドーニモコーニモからの生還である。
詰めていたのがやたら蚊の多い場所で露出している腕をくわれまくっておかしなことになっていた。そこに生えていた立派な欅の幹をよくよく見れば、枝が落ちた痕が深い洞になっており、雨水の溜まっているのをライトで照らして覗き込んだら小さな細長いものがにょんにょんしていたわけで、なるほどこうして常に新規供給されていればあちこち刺されるのもむべなるかな。しかし納得しても痒いことには変わりない。
早出残業休出の揃い踏みといっても不眠不休で働いていたわけでもなく、それなりにというかむしろいつも以上に寝ていたし美味いもん食べたり美味い酒を飲んではいたのだった。そんな折、金曜の夜にやってられっかと飲み屋に入ろうとしたら、「週末はお一人様はお断りしてるんですよ〜」とあっさり断られたのだった。なんてことだ、残業帰りのひとり飲みはたまにやるが、「お一人様お断り」と言われたのは初めてだ。ほぼすっぴんだったのがいけなかったのだろうか。それとも疲れきって目の下が黒々としていたのがいけなかったのか、はたまたスニーカーにラフな格好をしていたのがドレスコードに引っかかったのか、昼間のガテン仕事のせいで汗臭かったせいだろうか。心当たりがありすぎる。忙殺されているからってあまりに適当な格好ばかりしてはいかんという天のお告げだろうか。
天啓に撃たれしばし反省したので、あくる日はちゃんと化粧してスカートを穿き銀座まで釜飯と焼き鳥を食べにいったのだった。