声色

現場に資材が配達されると、到着時に配送ドライバーから「着いたよ」という電話が入る。携帯がなかった時代はこういうのをどうしていたんだろうか。文明の利器は偉大だ。こうしてなんでもかんでも電話をかけるので、休みの日にまで鳴るという弊害もあるにはある。それはともかく、電話を受けたら受け取りに行く。納品書にサインをせねばならないのである。通話を切ったその足でテクテクと向かうと、初めて会う配送さんに「女性だったんですか」と驚かれる。この職業で性別に関する物珍しさに接するのはいつもの事だが、ちょっと待て。さっき電話で話したろ。
いわれてみれば会社の携帯にでるときには営業声色を使わない癖がついている。話し言葉というのは不思議なもので、訛っている人には同じ訛りで返した方が話が通じやすい。標準語でも通じないわけではないのだが、そんなものである。声のトーンもその場に相応しいものでないと、同じことを言っていてもバシッと通じなかったりする。長々と喋れば最終的には通じるんだろうが、資材は何処其処に持ってきてくれなどという短い指示だとそれが顕著になる。いかにも話が通じるフリをすることで、相手に不安を与えず余計な気を回させない。そういう効果を狙っているわけである。断じて疲れてどうでもよくなってたとかではない。ないのである。