読了:一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史(ポーラアンダーウッド)

一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

イロコイ族の系譜をひく女性が未来の世代へ贈る
一万年間語り継がれたモンゴロイドの大いなる旅路
アメリカ大陸に住む、インディアンとも呼ばれるネイティブ・アメリカンの人々は、その昔ベーリング海峡が陸続きたっだころベーリング陸橋をわたり、アジア大陸へ渡ってきたモンゴロイドの子孫だという説が定着しつつある。「一万年の旅路」は、ネイティブアメリカンのイロコイ族に伝わる口承史であり、物語ははるか一万年以上も前、一族が長らく定住していたアジアの地を旅立つ所から始まる。彼らがベーリング陸橋を超え北米大陸にわたり、五大湖のほとりに永住の地を見つけるまでの出来事が緻密に描写され、定説を裏付ける証言となっている。イロコイ族の系譜をひく著者ポーラ・アンダーウッドは、この遺産を継承し、それを次世代に引き継ぐ責任を自ら負い、ネイティブ・アメリカンの知恵を人類共通の財産とするべく英訳出版に踏み切った。

ネイティブ・アメリカンの口伝という本書だが、そこはそれ、口伝ですといえば時代のバイアスや多少の史実との食い違いなどはあり得るというエクスキューズにはなるよね、というのがまず前提である。
私はわりとムー的なロマンが好きだ。長じてのちに科学や歴史に興味を持つ土台になったのは、子供のころにこうした摩訶不思議に夢中になったときのわくわく感だ。好みとしては陰謀論は心像が暗いのでイマイチなんだが、オーパーツ超古代文明なんかは好物だ。本書もそういうわくわく感を提供してくれるという分にはまったく申し分ない。
タイトルが「一万年の旅路」となっているが、読んでみて吃驚、一万年は控えめな表現だったのである。ちょっとした思い出みたいに触れられてる箇所を入れれば10万年はカタい。他にネアンデルタール人と思しき種族との交流が出てきたり、その内容がまた驚くべきものだったり、強大な王政を敷いている超古代文明のような勢力に併合されそうになったり、実に多彩な物語が展開する。特にベーリング海峡を渡るときのいきさつなどは涙なくして読めない。なんというか、真偽はさておき話として面白いのだ。ここで内容を全部喋ってしまいたいくらいだ。
法螺話と騙りは違うのだ。昨今のSNSではいい話なら嘘でもいいのかという議論が喧しいが、そこら辺の距離感が掴めない人たちにお遊びすら潰されていくのは息苦しい。受け取る側の抑制は当然のこととして、何も言わなくとも判るだろ、という余地はあってもいい。そんで騙されたとしても罪のない範囲に留めておくさじ加減の玄妙さは芸術である。嘘かもしれないけど本当だったらいいな、という浮遊感には独特の力がある。煤けた現実に疲れたときでも、浮き立つような前向きの気分を与えてくれる。それこそが進化の糧だとでもいうような。ときどき読み返したい本である。