読了:ノヴァ(サミュエル・R.ディレイニー)

ノヴァ (ハヤカワ文庫SF)

ノヴァ (ハヤカワ文庫SF)

三十二世紀。感覚シリンクス(楽器)を操るジプシー出身のマウスは、キャプテン・ローク・フォン・レイに拾われ、大爆発をおこしノヴァになる瞬間の恒星の中心部へ、希少な超エネルギー資源イリュリオンを短時間に大量に採取しにいく。
いや〜、面白かった。初めは独特の言い回しにつまずきましたが、ものの二・三ページでその世界にぐいっと引き込まれ、そのまま一気読みしました。軽い眩暈を誘う方言の表現、そこに吹く風を感じるような描写。伊藤氏の翻訳がまた、素敵なんです。マウスとカティンのコンビ(cat'n mouse、トムとジェリー?)、白黒の双子、タローを読むティイと翼のある獣をペットにする‥‥名前を失念しました。登場人物のそれぞれが、それぞれの”聖杯”を求める話でもある。と解説を読んで初めて知りました。
ああ、そういう読み方も出来るのね‥‥確かに各種神話(主に欧州)の象徴らしきものが沢山出てきました。多分、読みきれてない部分も多いんだろうなぁ。でも、そんなに気にしなくても、テンポよく幻想的な描写も美しく、充分楽しめました。といっても、やっぱり多重構造だからこそ、この面白さがあるんだろうなぁ。私は読みながら「白鯨」だな、と思ったんですが、考えてみればそれこそ多重構造の探求ものでしたね。
それにしても、最後のノヴァを潜り抜けるシーンは、アナルを象徴しているという話を読んで、仰天しました。え、著者がゲイだから? 別に良いけど、なにもそこまで穿たなくても。