無理矢理眠るコツ

しばらく不眠症だったことがある。鬱病からくる睡眠障害だったらしい。詳しいことはよく判らんが、医者にはそう言われた。
子供の頃から寝つきは悪かったのだが、それが徐々にエスカレートして、中学の頃には布団の中で二時間は寝返りを打つのは当り前、高校に入る頃は布団の中でぼんやりしているうちに空が白んでくることもよくあった。
だから始まりがいつなのか自覚していない。母に連れて行かれた病院にて検査を受けた段階で、上の旨を医者に伝えたところ、「それは結構ひどいね」と言われて初めて不眠症を自覚した次第。鬱に関しても同じ。思えば中学ぐらいで世の中に対して諦めきっていたところがあるので、病識がないまま十年程度過ごしていたらしい。
というか、これは病気なのか? 性格・個性・魂のカタチ的な癖みたいなもんじゃないのか?
そこら辺はよく知らない。私は専門家ではないし、理屈や理由は現世利益に役に立ちそうな部分しか調べない。とにかく心配事や厭なことがあると、私は眠れなくなりやすいし、眠れないと疲れが取れず悪循環のスパイラルに陥る。ほうっておくと病気認定されてもおかしくない程度には、すぐにおかしくなれる。
こういう負の個性があると生活上支障が出ていろいろ不便だし、そうならないように先手を打って輪を断ち切ってしまえばいいんじゃないか。と試行錯誤した結果が、目をそむける呪文と眠るコツだったというわけ。


私は厭なことがあると、原因になった相手をいつまでも心の中で責めつづける癖がある。
他人の悪口ってのは蜜の味で、他人を罵っている間は自分は正当化されるし、言うのに忙しいので自分の醜い部分から目をそらすにはうってつけの手段だ。その代わり、他人の悪口を言っている間は、厭なことから離れられない。いつまでもいつまでも厭な気分でいなければならない。そうすると、気分が滅入ってくる。滅入ってくると眠れなくなり‥‥悪循環。
それを止めるところはどこかというと、厭なことって生きてれば多かれ少なかれある。それは止められない。厭な相手を嫌わない・怒らない・全部赦すのは、今の私には無理。時間かけて修行するならするでいいけども、速攻性がなければ現在困っていることの解決にはならない。じゃあ次の悪口を言い続けるのをやめる。相手から目を逸らすこと。それならできる。
というわけで、ヤバい前兆を感じたときに唱える呪文がある。私の場合は今のところ、
「コイツが五億円くれるわけじゃない」
唱える文句は時々変わる。思いつく限りで、一番気分がしらける言葉が効果的だ。
この呪文法、脱鬱の人に聞くと、結構やっている人がいる。私は「しらける」ことで正気を保つが、人によっては「大好きなこと」に気分を振り向けたり、「とりあえず涙を流す」ことで浄化しちゃったり、様々だ。
それで日常の大抵のことは乗り切れる。夜もちゃんと眠くなる。
でも、手に余ることもある。さて、実際眠れなくなっちゃったら、どうするか。
今までにもいろいろ試した。

  • 玉葱スライスやラベンダーなどの匂いモノ:私は嗅覚が発達しているので、何かの匂いがするだけで気になって眠れない。
  • 寝る前のホットミルク:まったく効かない。
  • 寝る一時間前に入浴:普段はまあまあだけど眠れないときは意味なし。
  • ハーブティ:コーヒー中毒者にハーブって焼け石に水って気がする。
  • 飲酒:単に寝つきが悪いときに一杯嗜む程度なら悪くないが、本気で眠れないときの寝酒は量が増える。多量に飲んですぐ寝ると、悪酔いする。アルコールの分解に掛かる時間や消耗する体力、酔いが醒めるときに目も覚めてしまう、眠りが浅くなる等々を考え合わせると、あまり効率がよいとはいえない。
  • ヨガ:これは効果ある。でもかなり面倒臭い。
  • もうちょっと簡単にストレッチ:首筋を伸ばすのはある程度効果ある。人間、首が凝ってると眠れない。
  • ツボ押し:軽いときはこれだけでイケる。天柱(てんちゅう)・風池(ふうち)といった首筋が効く。
  • 意識して意識をとばす:実はこれが本命。説明が難しいが‥‥。

布団に入ってから、しまった、眠れない‥‥と思ったときに私がやること。

  1. 仰向けになり、なるべく身体をまっすぐにする。脚を肩幅程度に開く。腰が辛いときはひざを立てることもある。両手は上を向けて身体の脇に置くか、下腹あたりに掌を当てて親指と人差し指が触れるくらいに並べておく。
  2. そのままゆっくり呼吸し、身体の芯をまっすぐにするように意識する。
  3. 心配事やなんかが心に浮かんだら、無理矢理目をそらす。何度浮かんでも叩き潰す。後のことなど知ったことか、勝手に野となれ山となれと、自棄っぱちなぐらいに一生懸命ぼんやりする。
  4. 芯を意識しつつ拡散することに集中しつづけると、なんとなくどこに力が入っているのか判ってくるので、力を抜くことに力を注ぐ。一ヶ所抜けると、次の箇所が出てくるので、繰り返す。このときじわじわ〜と寒気が広がることもある。
  5. だいたい全身の力が抜けると、どっくんどっくんと脈動を感じる。こうなったらしめたもので、その頃にはいい感じにぼんやりして、脳内麻薬出まくりとまではいかなくても、搾り出したくらいにはポヤンとなっている。
  6. この後は姿勢を変えても大丈夫。私の場合はここで背中を冷やすと眠りやすい。

見事に矛盾だらけですな。茶化して書いているわけではないのです。言葉にすると、こうなるしかないんです‥‥。
この間、体感的には十分ぐらいでしょうか。暗い部屋で目を瞑ってるので、確認したことはありません。もしかしたらもう少し長いかな。