読了:虎よ、虎よ!(アルフレッド・ベスター)

ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!

破砕された宇宙船の残骸にただひとり残されて漂流しながら、ガリヴァー・フォイルは死にかけていた。あるいは、目覚めかけていた。
スピーディで異様にテンションの高い読み物だった。あれよあれよという間に物語が展開し、復讐の憤怒に駆られたガリーが力技で強引に突き進んでいくのが小気味良い。
いざとなったら女を強姦して言うことをきかせ、かと思えば次は別の女を連れて脱獄する。読んでいるとスピードに乗せられてぐいぐいと引っ張られていくのだけど、スピード感だけで内容が薄いのかというととんでもなく、盛り込まれたものもなんだか凄い濃度で贅沢な使い方をされている。
登場人物だけでも高濃度の放射能を帯びた男、血と金に呪われた大富豪、一方向のテレパス、赤外線が見えるアルビノの美女、七十歳の子どもとやたら濃い。
設定もジョウント、パイア、科学人、宇宙戦争。その設定を生かし、細かいディティールが作りこまれているのが凄い。すべてが絡み合い、おためごかしのないそれぞれの欲望と復讐心によって思わぬ方向へ話が捻じ曲がっていく様は圧巻である。萌えなんざ糞くらえである。
五十年生き残る作品だけのことはある。

あたくしを勝ちとろうなんてしないで‥‥あたくしを破壊して!