めくるめくそんなこんな

昨日の話である。
更衣室に鍵を置き忘れたために帰れなくなった私は、仕方なく漫画喫茶だかネットカフェなるものに泊まることにした。そういう類の場所に行くのは実に十年ぶりくらいである。往時は会員制だったりして、初回利用時にデポジットを取られたりしたものだが、今はそんなことはないのだな。
それはともかく夜も更けた深夜である。一緒に残業していた人に、何故か会社で保有している自転車を使うように奨められ、『自転車かよ』と微妙な気分になりつつ、ないよりはマシかと思い直して有難く使わせていただくことにしたんである。会社のパソコンで近場のネットカフェを検索して、そちらへ向かった。
こちらへ越してきて2年になるが、正直地理にはまだ不安がある。とくに暗くなってからだとなかなか街中で目的の場所を探し出せない。毎度はてダ隊でも先頭を切って迷う私である。地図を片手に自転車を漕いでいたら、案の定、細かい番地がよく判らなくなった。道ばたに自転車を止め、暗い夜道でプリントアウトした地図をしげしげと眺める。どうも暗くてよく見えない。そこで街灯の下まで行くために、サドルに跨ったままズルズルと自転車ごと移動しようとした、そのときである。
後ろでガキッと音がして、頭がグルッと回った。気がついたら作業服のまま地べたに転がっていた。倒れるときにぶつけたらしい右肩と自転車の下敷きになった右ひざが痛い。目の前に車のタイヤがあった。ギギギ、と自転車から押し潰される音がして、同時に挟まれた腿にステンレスの骨組みが喰いこんだ。
どうやら自転車の後ろの車輪を乗用車に引っ掛けられ、そのまま踏まれたようである。そう判ったのは車の運転をしていた年配の女性が降りてきて、自転車の下敷きになった私の右足を引っ張り出してくれてからであった。
すみやかに救急車が呼ばれてすぐ近くの夜間医療センターに搬送され、しかし丈夫な作業服のおかげか、明るい照明の下で確認してみると打撲以外の特に目立った外傷も無く、相変わらず私は転び方が上手いらしいことが証明されたのだった。ずいぶん前に原付で車に撥ねられて5メートル吹っ飛ぶも、打撲と擦過傷で済んだことがあるのだ。
とりあえず警察の事情聴取は後日ということになり、少し頭を打っているのと、鍵がないので家に帰れない事情を話すと、念の為に病院のベッドで一泊することになった。その時点で既に午前3時である。ネットカフェのソファではなくベッドで寝られることにはなったが、軽症とはいえさすがに身体が痛い。
ミチミチと不平不満の声を上げる身体を宥めすかし、しかし頭も興奮状態になっていたせいか、大破した自転車はどうするのかとか、これって労災は適用されないだろうなとか、そもそも交通事故だから労災も健康保険も関係ないのかとか、とりとめのない事を考えながら、浅い眠りについたのだった。
さっぱり寝た気がしないまま朝になり、近くのドトールでもそもそと朝食をとり、そのまま出勤して今に至‥‥オチが思いつかん。えー、4月バカ、おめでとう。