映画:ライフ・イズ・ミラクル(監督:エミール・クストリッツァ)

『捕虜と恋に落ちてしまったセルビア人男性に起きた実話を基に、絶望の中に見出す希望の物語』という煽り文句なのだが、中盤くらいまで何の映画なのかよく判らない。だから面白くないのかというとそうではなくて、埃アレルギーでオペラ歌手の妻や将来有望なサッカー選手の息子、近所の爺さんや犬猫熊鳥など動物がおかしな具合に絡んできて目が放せない。失恋した絶望から線路に立ちはだかって汽車に撥ねられるのを待つロバは、主人公の分身なのだな。犬はアホのように主人を愛し追いかけ、猫は勝手に横からパンのご相伴に預かる。
山懐に抱かれ起伏に富んだ自然のなかで、牧歌的に明るくコミカルに描かれているが、内紛の哀しさを含んだ物語である。
停戦が終わり息子は待望の大きなサッカーチームに招聘された途端に、徴兵されて泣く泣く戦争へ行くことになる。それと同時期に落ち着きのない妻はミュージシャンと駆け落ちしてしまい、中年男のルカは一人暮らしになってしまう。そこからストーリーが転がり始める。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争があったのは1992年から1995年。物語の背景はおそらく一時停戦から最後の戦闘に入った1995年のことだろう。5月から10月までのひと夏である。ボスニア・ヘルツェゴビナの独立を求めるボシュニャク人・クロアチア人と、独立に反対するセルビア人との間の対立である。ルカはセルビア人、『ムスリム』と呼ばれているからサバーハはボシュニャク人なのだろう。紛争終結後、クロアチア人・ボシュニャク人がボスニア・ヘルツェゴビナ連邦、セルビア人がスルプスカ共和国を形成し、それぞれ独立性を持つ国家体制となった。さらにこの二つの国を国家連合として、国際的には一国と数えられることになったのである。
緑豊かな山岳地帯にジプシー音楽が鳴り響き、寓話を連ねたような物語がこれでもかと繰り広げられる。光溢れる画面は美しく満ち足りて、哀しみを呑み込んでいく。