映画:マッハ!弐(監督・原案・武術指導・主演:トニー・ジャー)

タイのアクション映画である。『マッハ!弐』といっても、ストーリーは『マッハ!!!!!!!』とはまったく関係ない。だったら象さんも出てくるし、『トム・ヤム・クン!弐』でも良かったんじゲフンゲフン!
今度のマッハ!はスコータイ王朝からアユタヤ王朝へ移るあたりが舞台である。いってみればタイの時代劇だ。これがやたら面白い。豊かなアユタヤ。交易が盛んに行われていたはずである。日本では主君を失った浪人が海外に流れた時期で、アユタヤでも日本人街がかなり盛り上がっていたらしい。人が集まる市場には多種多様な地方や国の人々が入り乱れる。そこで奴隷の売買が行われる様も、奴隷は泥にまみれ人買いは傷跡だらけ。山賊の宴会では焚き火を囲み打楽器が打ち鳴らされる。しょっちゅう雨が降り出すが誰も気にしない。私にとっては目新しい猥雑なまでに泥臭い土俗的な習俗が、衒いなく元気いっぱいに描かれているのが興味深い。ジャングルの中に高床式の家が何軒か集まっている集落やそこでの生活など、お堅いドキュメンタリー番組でしか見たことがないものがドラマを得て生き生きと動き出すのだ、面白くないわけがない。
クーデターによって国王である父とその妃である母を殺されたティンは、追っ手を逃れて逃げるうち、ひょんなことから山賊団『ガルーダの翼峰』の頭領に拾われる。この頭領チューナン(ソーラポン・チャートリー)がどっしり構えた貴族的な風貌で、オヤジ好きとしてはなかなか色っぽくて好い。くるんと巻いた口髭と見事に生え揃った顎鬚でスペードのキングのようだ。山賊のアジトで鍛えられたティンがしなやかな青年に育っていくのがまた単純に格好良い。喩えがナンだがあれだ、若い頃のイシュトヴァーンのようだ。そして山賊のアジトといってもせせこましいものではなく、山の中に鍛冶屋も肉屋もある町ひとつまるごとのようなもので、梁山泊みたいなもんである。
アクションも今回は『ムエタイ以外も使います』とのことで、居合から酔拳やら槍術、拳闘等々百花繚乱である。やっぱりさすが圧巻のムエタイが一番見ごたえがあったな。とにかく闘って闘って闘いまくっている。
しかしである。あっという間の98分観終わっても、話が完結していないのである。なんでも途中まで撮ったものの資金が足りなくなったとかで、とりあえず出来た分だけ公開して資金を稼ぐことにしたんだとか。うはは、みんな映画館に観に行ってあげて! これ、出来上がったら傑作だよ。