映画:Dr.パルナサスの鏡(監督:テリー・ギリアム)

映画を撮っている最中に主演のヒース・レジャーが急逝してしまい、撮影が中断し空中分解しかけたものの、彼と親交のあったジョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレルの3人がそれぞれ別世界にトリップした主演を代演することで完成に至ったとか。ヒロインのヴァレンティナ(パルナサスの娘)を演じるリリー・コールは21歳のスーパーモデルなんだそうだが、アチラの方には珍しいような童顔で16歳の役にも違和感はない。ただ、ずっとベッキーに見えて仕方なかったわ。
テリー・ギリアムらしい、キッチュなおもちゃ箱をぶちまけたようなハリボテ感・書き割感は健在である。最初の馬車がギギギ‥‥と開くところから、怪しい扉が開くようでワクワクしてくる。白塗りの道化が口上を述べ‥‥るが、しかし道行く人は振り返っても立ち止まらない。舞台は時代がかった馬車なのに、しかし外はアスファルトの地面をすたすた歩くダウンジャケットやキレイなコートを着た人々。酔っ払って出てくるのは場末の酒場ではなく、テクノがガンガン鳴っているクラブである。Dr.パルナサスその人は、胡坐姿で宙に浮いているのを表現するために、透明プラスチックの台の上に座っていて、横滑りする仕掛けが止まるとガクンと揺れる。そこはかとなく寒々しい滑り出しである。
3DだIMAXだとCG技術の華やかなりし昨今、テリー・ギリアムの色付きプラスチックや発泡スチロールに色を塗るような作風はもういかにも時代遅れだという自嘲だろうか。ショーの売り物である『Dr.パルナサスの鏡』は、2枚のミラーシートが枠に暖簾状にかけてあるだけ。めくるとベロンと安っぽい音がするそれを通り抜けると‥‥という仕掛けなのだが、中身だけは一応、本物なんである。
話としてはとっ散らかり過ぎて据わりが悪く、正直私にはよく判らなかった。善と悪の戦い、というかゲームでしかないということなのだろうが、どうも主演が途中で亡くなってしまったことで、ストーリーも変更せざるを得なかったのではなかろうか。あの造形と煙に巻かれるようなワケの判らなさが味わいたいというなら、それはそれでアリだと思う。善も悪も一筋縄ではいかない厭な世の中だけれども、それは果たして今に始まったことなのだろうか。最初から実はそうだったんじゃないかな。