読了:『フーコーの振り子 上・下』ウンベルト・エーコ

フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈下〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈下〉 (文春文庫)

「追われている。殺されるかもしれない。そうだ、テンプル騎士団だ」ミラノの出版社に持ち込まれた原稿が、三人の編集者たちを中世へ、錬金術の時代へと引き寄せていく。やがてひとりが失踪する。行き着いた先はパリ、国立工芸院、「フーコーの振り子」のある博物館だ。「薔薇の名前」から8年、満を持して世界に問うエーコ畢生の大作。

《『ダ・ヴィンチ・コード』で物足りなかった人は『フーコーの振り子』》というキャッチフレーズがあるようだが、声を大にして言いたい。
落差がありすぎるわっ!!
ダ・ヴィンチ・コード』はちょうど風邪をひいているときに読んで、「具合悪いときにはこういう軽い与太話がちょうどいいわね〜」と思った覚えがある。
一方こちらは『薔薇の名前』も読んでいなくて初のエーコ体験であった。上巻いっぱいはワケの判らない眉唾話が延々と続く。だらだらと並べられる固有名詞、何の意味があるのか判らない儀式についての議論、神秘の名における強引なこじつけ、テンプル騎士団や薔薇十字団などの秘密結社や錬金術にまつわるそんなこんながこれでもかとてんこ盛りである。加えて訳文が落語のようで内容にそぐわず、読むのに苦労した。読み終わってみれば諧謔を含んだユーモア風味を醸し出したかったのかなと思い至るものの、それでもいきなりイタリア人のおっさんが「恐れ入谷の鬼子母神」とか言い出したらのけぞる。他にもなんというかわざとらしい語句が多くてすんなり流れに乗れず、ただでさえアレな内容なのにますますキビシイ読書となったのであった。
しかし下巻に入ってからはさくさく進んだ。文体に慣れたのか、妙な語句が少なくなったのか、上巻で触れた胡散臭さが下巻に入ってから解きほぐされ、落ちるところに落ちていくのは気持ちがいい。こうしてみると上巻は壮大な前フリなのだな。こんな話があってあんなこともあって、もしかしたらこうかも知れなくって、と膨大な量のいかにもな情報を見せ付け、さて、じゃあそれをどう読み解くのかといえば一刀両断にバッサリである。頷くしかない結末の陰で、人の悪い天才・エーコアイロニーに満ちた呵呵大笑が聞こえるようであった。やられたよ。笑うしかない。壮大すぎる。上下巻使ってナニやっとんじゃー! である。