読了:時の地図(フェリクス J.パルマ)

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

帯には『絶対に先が読めない』という煽り文句。確かに読んでみると誰が主人公なのかすら最初は判らないくらい、話があっちへ飛んだかと思えばこっちへ突き進む。
19世紀末のロンドンで切り裂きジャックを巡る悲恋の物語から前人未到の秘境への大冒険につながり、それが100年の時を越えた大恋愛へと発展していく。どんでん返しに次ぐ切り返しでまさに謎が謎を呼び息もつかせぬ冒険ミステリSF活劇である。ベルエポックのレトロな雰囲気もふんだんに盛り込み、人物や事件も虚実入り乱れ、特に実在の小説や作家が出てくるくだりなどは読者へのくすぐりも効いている。
それでも始終一貫して『タイムトラベル』にまつわる話であり続けているのが、逆に不思議なくらいだ。軽妙で適度に諧謔を含んだ文章は最高に読みやすく、どんどんあらぬほうへと転がっていく話を必死で追いかけることになる。
硬派な社会問題を扱っていたり人の心の機微を繊細に描き出したりといろんな小説があるが、その基本はいわゆるホラ話である。面白い小説とは、どれだけ上手い嘘をつけるかに尽きる。これはその基本に忠実な中で最高の部類だ。