読了:『緑の家』バルガス=リョサ

緑の家(上) (岩波文庫)

緑の家(上) (岩波文庫)

緑の家(下) (岩波文庫)

緑の家(下) (岩波文庫)

南米の鬱蒼としたジャングルのように混み入った構成で、読んでいるうちに目眩がしてくる。夢中で蔦や下生えを掻き分けて進むと、気がついた頃にはのっぴきならないところまで迷い込んでしまう。
時と場所の異なる5つの物語が別々に語られる。浮かんでは消える情景に目移りしていると、次第にあちらで出てきた名前がこちらにも顔を出すようになる。話を追ってエピソードの順番を頭の中で入替えるのだが、それとて一筋縄ではいかない。ある子どもはある人物の名前を受け継ぎ、別の人物は途中で呼び名が変わる。役職が交代し立場が移り変わっていき、子どもは大人になりひとは齢をとる。ひとの記憶は曖昧で、口伝の昔話のように混沌としているのだ。
あるときは密林の生命力旺盛な植物の香りにむせ返り、あるときは細かい砂に痛めつけられ強い太陽にひりひりと肌を擦られる。おしなべて言えるのはとにかく暑いということで、纏わりつく蚊に悩まされながら、それでもしたたかに金儲けに精を出し、子を産み育てていく。人間の底力とでもいうのか、連綿と続いていく町の営みや泥臭い人の迷いやあがきが描かれる。
密林にしろ砂漠にしろ苛烈な環境では、人間もまた動物であるということが厭でも意識させられるのだな。スカしていたら呑み込まれてしまうような圧力をもって、砂が密林が水が昆虫が迫ってくる。まるで切り開き続けないと閉じてしまう生きた繭だ。
有機的に繋がった断片を結びつけ考え続けなければ読み進められないこの話の構成は、まさしく南米の自然のようだ。