- 作者: フェルナンド・バジェホ,久野量一
- 出版社/メーカー: 松籟社
- 発売日: 2011/12/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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革命軍や左翼ゲリラ・右翼民兵がしのぎを削り、麻薬密輸、暴動などに揺れ動くコロンビアでは賄賂が横行し、ちょっとしたことで路上で人が殺し合う。民衆は貧しく政治は腐敗しているという。彼によればまさしく生きることそのものが呪われたクソッタレで、世の中すべてが救いようがなく、人生は生きるに値せず、しかし死ぬにも値しない。その中で祖母と父とすぐ下の弟だけはまるで天使のように扱われる。しかし祖母は随分前に亡くなっているし、弟は痩せ細って目の前で死にかけている。それにつれて思い出されるのが、1年前に癌で死んだ父の今わの際のことである。ということは、弟が逝ってしまったら彼にはもう大事なものは何も残されていないことになるのが、次第に判ってくる。
途中で鏡の中と入れ替わり、一人称が三人称になる場面がある。ほんの短い間だけども、その間だけ狂ったような熱い激情の奔流が少しだけ遠くなる。その途端にしんみりと身に迫るような冷たさが入り込むのだ。避けがたい死の匂いが場を支配し、懸命な兄の苦悩と悪あがきが哀れを誘う。再び罵倒が始まっても、もう流れは変えられない。途端にこのめまぐるしい言葉の数々は鎮魂の叫びなのだなとすとんと腹に落ちるのだ。
表紙は幼い頃の作家のバジェボ本人とその弟の写真なのだそうだ。