『冬の犬』アリステア・マクラウド

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

なんども繰り返し確かめるように読みたくなる短編集である。少し前に読み終わっていたのだが、いざ感想を書こうとしているいま既に読み返したくなっている。
カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトンを舞台に据えたいくつかの短編が収められている。そこにはスコットランド高地からの移民が多いという。島が位置するのは赤毛のアンの舞台となったプリンス・エドワード島の隣といえば、一部の人にはなによりも判りやすいだろう。信心深く美しくも厳しい自然と共に生きる人々が描き出される。
田舎の生活が地味かというとそれは全然違うと思う。自然を相手にすると知識と技術を持たねば生きることすら出来ないが、なんというのだろう、自分の裁量でいろんなことを判断して決めていかなければならないということは、それだけ自由に生きているということなのではないだろうか。もちろん生活に必要なこととやらなければならないことを並べれば、選択の余地はあまりないかもしれない。ただ外からのお仕着せは通用しない。とはいえ、お役所の都合が自然という神様から与えられた枠組に拡大しただけで構造は変わっていないじゃないかといえばその通りなのだが、枠が拡大しただけ尺度の違いはあると思うのだ。
泥と虫と生命を脅かす厳寒の風景が何故こうも美しいと感じるのか、自分でもよく判らない。いまでも答えを探している。