映画:バーン・アフター・リーディング(監督:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン)

ワシントンのフィットネスセンターで働くチャド(ブラッド・ピット)とリンダ(フランシス・マクドーマンド)が更衣室で拾った1枚のCD-ROM。そこにはCIAの機密情報が書き込まれていた。その頃、元CIA諜報員のオズボーン(ジョン・マルコヴィッチ)は自分が機密情報を紛失したことに気づき、狼狽…。オズボーンの妻・ケイティ(ティルだ・スウィントン)は夫の危機をよそに財務省連邦保安官のハリー(ジョージ・クルーニー)と不倫生活を満喫中。だが実は、ハリーは出会い系サイトで意気投合したリンダとも関係を重ねていた…。一枚のディスクをめぐり、5人が絡み合い、幼稚な企みによって事態は誰の手にも負えない結末へと転がっていく――。

通好みというのか大人向けというか、意外なほど湿度の低いブラックコメディであった。温度も低いのでなんだかアメリカのコメディという感じがしない。かといってヨーロッパっぽいかというと、そうでもないんだが。
込み入った人間関係にそれぞれトンチカンな登場人物がさらに複雑な状況を作り出していくので、話が何処に向かっているのか最後まで判らない。キャラクターの配置と道具立ての妙であれよあれよと乗せられていく。そのせいで状況説明から入らねばならないので導入部の予習の時間が若干退屈だが、それを乗り越えればじわじわ型の笑いが待っている。絵面はキレイでスマートなんだが、欲望剥き出しでやってることはえげつないんだよな。
真面目な顔してしょうもないことをしてるのは、戯画化した人物造形なんだろうなぁ。強迫観念からおかしな行動をとってしまう登場人物は、滑稽で間抜けだ。それらの人物に共感を抱くわけでもないし、周りの他の誰とも似ていない。しかしふとこの愚かしさはもしかしたら自分だったかも知れないと思ってしまう。人間の負の部分。誰の中にでもあるバカバカしさは、普段は理性の力でバランスを取り抑え込まれている。美容整形でなにもかもすべて上手くいくなんて、確かに本末転倒である。更にド素人が国家機密をネタにプロを恐喝するなどと。しかし一縷の望みをかけたり思い込んでみたりはたまた甘えや気の緩みなどで、ひょんなことから深みに嵌ってしまいそうになったことが一度もない人なんているだろうか。思い出すだけで雄叫びを上げたくなるような、恥ずかしいバカな真似をしたことが。私にはある。そうしたエグい部分を巧妙に刺激してくるんである。この突き放し方がけっこうキライじゃない私はマゾなのかもしれない‥‥。
相変わらずブラピはイッちゃってる役をやっている。一瞬妄想オチなのかと期待してしまったほど、バカバカしいながら容赦のない展開に唖然呆然お口あんぐりである。あとからよく考えると結局、女は得して振り回されるのは男という話だったのかなと思わなくもないけど、そんなことどうでもいいわ。可笑しくてやがて背中の毛がそそけ立つような、凄いヤツはCIAマーン♪である。その前には筋道なんてかすんでしまう。