映画:イングロリアス・バスターズ(監督・脚本:クエンティン・タランティーノ)

ナチスをブチ殺す話である。
観終わった後、ふきだしながら『やっちまったか‥‥!』と思わず呟いた。あーあ、とため息が出る。残念だったからではない。それを言っちゃあおしめぇよ、というのは世の中に数々あると思うのだが、それを思い切りよくやっちまったからである。スケさんカクさんの水戸黄門と同じくらいの単純明快な勧善懲悪である。これにスカッとするのは、時代劇を好むご老人と同様に人生に疲れてきた証拠だろうか。
藪の中じゃないけども、どうもこの頃周りに気を遣いすぎて面倒臭いことが多すぎる。こっちにはこっちの言い分があり、あっちにはあっちの主張がある。どちらが正しいか考え始めたらドツボにはまり、情に棹差せば流される。仕舞いには『なにもかも貧乏が/戦争が/時代が悪いんだ!』とメタ的なナニカに責任転嫁して、きれいな顔して澄ましてみたり。けっ。振り上げた拳のもっていきようがないってのも、妙な閉塞感であることよな。
罪人に刺青を入れるというのは洋の東西を問わず珍しくないけども、あれ、ホントは『肉』って‥‥ゲフンゲフン! ショシャナが鏡の前でビッとチークをひくのは、アルド中尉が《アパッチ》で敵の皮を剥ぐのと呼応していて、戦闘用のフェイスペイントのイメージだったんだろうな。闘う女。それにしてもアルド中尉の首の傷跡は結局なんだったのか、やはりナチス絡みだったんだろうか。ストーリーを随分削ってからの公開だったらしく映画の中には回答はなかったようだが。
全体的にだいたいやりすぎで滑稽さをかもしだしているのだが、映画の中盤で《ユダヤ・ハンター》のランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)だけは地に足のついた存在感で異彩を放っていた。人好きのするにこやかな笑みがとにかく怖い。


ところでこの新作映画を観て相方さんのタランティーノ熱に火がついたらしい。そのとばっちりで次の日『パルプ・フィクション』と『ジャッキー・ブラウン』を立て続けに観せられた。どっちも面白かったのだが、当然の帰結として私の頭の中ではこの三本が分かちがたくごっちゃになったのだった‥‥。

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どっちかというと『ジャッキー・ブラウン』のほうが好みだったな。44歳のしがない黒人女性がどんどん魅力的に見えてくるのも意外(失礼)だったし、相手役のおっさんもいい顔をしていた。デ・ニーロはどこまでもボンクラな役どころなのだけど、さすがの存在感でただのボンクラじゃなくなってる。