読了:「ロビン・フッド物語」ローズマリ・サトクリフ

ロビン・フッド物語

ロビン・フッド物語

12、3世紀のイギリス、リチャード獅子心王の時代。統率力と義侠心、決断力、機知にすぐれ、仲間を最後まで見捨てない頼りがいのある男。いたずら好きで、負けず嫌いで、お人好しだがみなに愛される。伝説の英雄ロビン・フッドの血湧き肉踊る物語。小学校高学年から。

今度観に行く映画の予習である。
ロビン・フッドというとシャーウッドの森で子どもの頭に載せたリンゴを弓矢で射抜く(それはウィリアム・テルでした。ご指摘より)というイメージである。むかしむかしの侠気あふれる義賊といわれるが、実在のモデルは見つかっていない伝説上の人物だ。おそらくだが何人かのモデルのエピソードが複合的に重なって出来上がったイメージなのではないかといわれている。作者のいるフィクションでもなくはっきりしたモデルもないということで、何処を探してもこれで間違いないといえる決定版のストーリーも存在しない。じゃあ何を読めば判りやすいのかなと探してみたらば、英国歴史物ジュブナイルの重鎮ローズマリ・サトクリフが目に入ったのでこれにした。
12〜13世紀頃、森の中に隠れ住み、金持ち連中、つまり当時の支配階級である王侯貴族と教会関係者を目の敵にして襲う。平たくいうと山賊でありゲリラである。見渡してみると十字軍はじめ遠征に明け暮れた獅子心王リチャードと、権力の座を虎視眈々と狙い王になりかわろうとする王弟ジョンの時代に配置するのがしっくりくるようで、そのあたりの人物として描かれることが多いようである。この本でも時代設定はリチャード1世の遠征中にジョンが暴政を敷いて農民を苦しめているあたりからはじまる。ロビン自身が性悪な貴族の姦計に嵌められ、おたずね者として森に隠れ、次第に同じような境遇の仲間が集まってきて‥‥と、さまざまなエピソードを挟みながら年代を追ってロビンが死ぬまでの一代記のようになっている。
こうした義賊たちというのは既存のシステムを捨ててユートピアを形成する一種のテロリスト集団というのか、水滸伝梁山泊のようなものといえば判りやすいのだろうか。義に生き、信念を曲げず、武芸を磨き、人脈を拡げて一大勢力となったあとに、中央政権に認められ取り込まれてひとりひとりがバラバラになって世間に拡散する。その際に主役級の人物は私怨をたぎらせるかつての敵に陥れられて暗殺される切ない結末が定石である。
ところで本の中にはリンゴを射抜くくだりは出てこなかった。*1あのエピソードはだいたい『領主が広場の棒杭に自分の帽子を引っ掛け、民衆がその前を通るときは礼をするよう強制した。それを無視したロビンウィリアム・テルは領主の怒りを買い、報復として子どもがさらわれる。人質をタテにひざまずくか子どもの頭の上に乗せたリンゴを射抜いたら許してやると脅され、見事矢をリンゴに当てた』というものだ。この帽子云々のニュアンスは、当時の人々の服装は身分によってかなりはっきりと違っていたわけで、帽子は権力者の象徴でもあり、権力をカサにきて傍若無人な振る舞いをしたということでもあるのだな。
ついでにロビンが得意とする武器はいわずとしれた弓だが、イングランドで弓というと長いロングボウのことなのだそうな。大陸側のフランスなどでは胸の前で引く小弓が多いのだが、イングランドでは飛距離が長く強い長弓が発達し、いくつかの戦いで目覚しい戦果を上げた。以来、イングランドでは弓隊の長は名誉ある職とされているらしい。男なら四の五の言わず弓を引いてナンボのお国柄ということか。
予習はこのくらいにして、あとは映画を楽しむとしよう。

*1:ウィリアム・テルなんだから当たり前ですな