読了:卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッドベニオフ)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)

「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた。軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?

ポケミスなのでミステリーなのかと思っていたのだが、読み終わってみたらミステリーではなかった。そして軽い調子で始まるので油断したのだが、主人公が否応なしに卵を求めて右往左往するうちに、レニングラード包囲網が市民にもたらした凄惨さの片鱗が見え隠れしてくる。お、おぅ。二重に裏切られ、しかしそれはそれで興味深く読めたのだった。
レニングラードといえばソ連邦第2の都市、夏はともかく冬季ともなれば湖が凍り付いてその上をトラックが走れるような土地である。これが食糧を運ぶ命の道になるわけだけどな。都市に残った人々の状況があまりにあんまりすぎて冗談のようだし、語り口もあっさりしているのでおかしな作り話と断じてしまいそうになるが、実際はもっと酷かったようである。餓死者が続出し生き残った人々は死体の肉を口にせざるを得ないような修羅の場で、軍の大佐の娘の結婚式のために卵を探して歩く羽目に陥るというなんともいえない皮肉。みんなでがっついていた痩せこけた鶏のスープが美味しそうでねぇ。鶏が食べられるっていいよね‥‥しみじみ。