読了:「プラハの春」(春江一也)「さようなら、今まで魚をありがとう」(ダグラス・アダムス)「わたしを離さないで」(カズオイシグロ)

プラハの春

プラハの春

お、おなか一杯です‥‥一気呵成に読みきれなかったのが、消化不良の原因かもしれない。ちょっと体調を崩しつつ忙しかったもので、一度に二、三ページずつしか進まなかったこともあり、差迫る事件の緊張感や不穏な空気にのり切れなかった。
しかし、ベルリンの壁が崩壊した際のいきさつが非常にわかりやすく触れてあって、私は初めてそういうことだったのかと知った。当時から東欧には苦手意識があり、テレビに突然つるはしで壁を崩す市民の姿が登場したときには、何がなんだか判らなかったのだ。
悲劇後の淡々とした顛末が心に迫った。抗議の焼身自殺というニュースはあちこちで散見していたけど、これが発端ということもあるのだろうか。
作中の主人公は堀江。作者は春江氏。あちらふうにいうと「ヘル・ホリエ」と「ヘル・ハルエ」はそっくりだな。これはやはり‥‥大恋愛‥‥だったんだろう。


さようなら、いままで魚をありがとう (河出文庫)

さようなら、いままで魚をありがとう (河出文庫)

「銀河ヒッチハイクガイド」の四冊目。前作までとはうってかわって、恋愛モノになっている。それはそれで面白く読めたが、どうも荒唐無稽なB級SFを期待している身には、少々喰い足りない感は否めなかった。しかも、一番印象深かったエピソードが、作者の実体験って‥‥そこが一番ウケたというのもまた‥‥。
それよりマーヴィンが‥‥ショックだ。好きだったのに。


わたしを離さないで

わたしを離さないで

巡回先で話題になっていたときに図書館に予約したんだが、やっと順番が廻ってきた。蛇足だが、清水玲子さんの漫画に似てる、という話を読む前に目にしていたのだけど、ああアレね、とすぐにピンと来た。でもあれも最後まで読んでないな。読みたいなぁ。
それでこちらは、おそろしく読みやすい。だが当事者が口語で報告するような形になっているものでは、高校生の頃に「アルジャーノンに花束をアルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)」で一撃でやられたので、何が出てくるのか戦々恐々としながら読んだ。
読み進めるうちに様々な事柄が見えてくるのだが、微妙に見えそうで見えない部分もあり、四回目の提供の、向こう側ってなに? とか、絵は大事ってそれだけ? とか、薄暗闇を透かして物陰をみるような不気味でもどかしい感じがする。
無意識に植え付けられる使命も怖い。それとは別の意味で使命に燃える人も怖い。どちらの側にも立ちたくないが、きっとどちらの側にも私も立ってしまっているんだろう。
普段から私は、望まないのに手放せない古めかしい倫理観を持て余している。それは私の意思とは関係なく心をねじ伏せる力を持っている。おかしいと頭で判ってても、植え付けられたものはなかなか振り払えないものを、それを自覚することもなければ‥‥こうなるしかない。最後のシーンでは立っている足がどこにも接地していないことに、ふいに気づいたような‥‥よく判らない表現だが、白い闇が見えた気がした。
それでも、ルースやトミーの存在は救いだ。