読了:「ロリータ」(ウラジーミルナボコフ)

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

変態野郎の一生かけた片思いの話。
どこらへんが変態かって、言うまでもなく少女愛であることとか常軌を逸した拘り具合もそうなんだが、自らの苦悩にかまけて相手の気持ちなんかどうでも良くなってるところが、一番壊れてる。
我が我が、っていうアレである。
ハンバート・ハンバートはヨーロッパの富裕層に生まれ、そこそこ頭も良くって高い水準の教育を受けたインテリである。見目も麗しい。ヨーロッパ風の陰のある退廃的な美しさを漂わせる美男子である。はっきりいってそこらの女を虜にするのはワケないぜ、と告白している。
だけど幼少の頃の悲恋の傷が彼をして少女愛に向かわせる。
まともじゃない性癖がバレては困る。いかに上手く世間の目を欺き、しかも相手の少女を傷つけるのも本意ではないから、いかに穏健に欲望を達成するかが人生における最大の目標である。
アメリカへ渡ったハンバートにチャンスが訪れる。実に好みのタイプの少女の母親である未亡人が彼に恋をしたのだ。これで母親を隠れ蓑にして思う存分少女をおかずにできるじゃん、てなもんである。ここまで性欲を満足させることに憑かれているのが、変態だというのだ。
更に運命の輪は廻り、思ってもみなかった行き過ぎたある意味幸運に恵まれるが、所詮自分の情欲にしか興味がなくって実務に暗い男は、平常心を失ってまったく対処できなかったっちゅー話だ。


確かに他人の気持ちなんて判らない。どう頑張っても判るはずない。愛は美しい勘違いであるともいう。だけど、判ろうとする努力をハナから放棄するのとは話が違う。本気で厭がって実力行使で逃げ出すほどなのに、愛を口実にするってどうなのよ。怖ぇ、そこらへんが変態である。
感受性が豊かだとか詩人であるとか、そういうのに甘えて寄りかかって、内面の美的なことがさも価値あるかのように思い込み、そうでない他人をバカにする人っているよな。かくいう私もけっこうそのタイプで、自分の中の欠点を他人に見せつけられると非常に不愉快になるのであった。
自己評価が低いからそうでもなきゃ自尊心が保てないというのも判るが、その大部分が裏を返せば、曖昧などうとでも言えるようなことでしか誉めようがないってことでもあるんだよな。本当の才能や感受性って、そんな甘っちょろいもんじゃないのだ。


ハンバートも最後の最後でロリータの表面を撫で連れ回しただけで、ちょっとでも内面に食い込むことなんかできなかったと絶望に至る。

「あなたは私の人生を傷つけただけだけど、彼は私の心を傷つけたんだもの」

という想像が、彼の心像を端的に物語っている。
そりゃーアナタ‥‥実にぐりぐりと心を抉られる一冊であった。